ダクシンカリ
まずは日本人にはほぼ知られていないであろうカーリー女神から説明しなくてはなりませんね。
ヒンドゥー教には一説には三百三十万柱の神々が存在することになっているそうです(ちなみに日本では八百万(やおよろず)柱です)。これだけ数が多いうえに南アジアは広大ですから、その土地や時代によって人気がある神は様々です。たった一人のスーパースターがいる一神教とは違い、こういう点は多神教の面白い所ですね。
そんな数多くのヒンドゥー教の神々の中で昔からかなりの人気を集めている女神にカーリーがおります。
女神と言えば慈悲深く美しいイメージを持つ方が多いと思います。ヒンドゥー教でも芸術と学問の神(サラスワティ)や富と豊穣の神(ラクシュミ)などはそれはそれは美しい女神様です。しかしカーリーは違います、血と戦いを好む死の女神なのですから。

これはインドの国立博物館に行ったときに展示されていた18世紀に描かれたカーリー女神です。舌を長く伸ばし、手には生首を掲げ、腰からは切り取った敵の手を何本もぶら下げています。およそ慈悲とは無縁の姿ですが、それでよいのです。こうでなければ魔族には勝てないからです。
強さに全振りしたその力は飛び抜けており、魔族との戦争の際は彼女の活躍で魔族の軍団は壊滅状態となりました。勝った後で勝利のダンスを踊った時にはあまりに強い力で大地を踏みしめたため大地を破壊しかけて危うく世界を滅ぼすところだったという笑えないエピソードがあります。
さて、このように恐ろしい女神であるにもかかわらずどうしてそんなに人気があるのでしょうか? それは、強い力を持つ神ほど強いご利益がある、と人は考えるからです。カーリー人気の秘密はここにあるのです。
カーリーのご利益は以下になります。
・邪を払い悪を滅ぼす → 災い避け
・強い生命力 → 病気快癒
・破壊の力→ 破壊の裏返しである再生と救済
サラスワティやラクシュミとは叶える望みがちょっと違いますね。
ですが、ご利益を得るにはただ単に祈るだけでは足りません。日本の神様なら祭られている神社に行ってお賽銭を投げます。ではカーリーは?血と戦いを好む死の女神がお賽銭で満足するでしょうか?否!カーリーが求めるのは生贄です。
というわけで、ネパール人にとっては生贄は特に珍しいものでもないので問題ありませんが、生贄慣れしていない外国人観光客にとってはダクシンカリは訪れる者を選ぶ血なまぐさい観光地となります。
すみません、前振りが長くなり過ぎました。
当店の拠点があるバクタプルからはダクシンカリまでの直行バスがありません。なのでカトマンズで一度乗り換えてキルティプルやチョバールを通り過ぎて南へと向かうこと1時間半、ちょっとした広場にバスは着きます。
ここから寺院までは緩い上り坂の参道になっていて両側には下の写真のように参拝客向けのお店が並んでいます。平日の昼にしてはまあまあ人がいるのは今日が火曜日だからです。ヒンドゥーの神々は占星術の関係でご利益が強い曜日が決まっており、カーリーは火曜と土曜(特に土曜が良いとされている)であるため火曜の本日もそこそこ人がいるのです。


お店に並んでいるのはプラサードと呼ばれるお参りセットです。うっかり生贄を忘れてきた人達のために山羊も売っていますが今日はもう生贄は締め切られています。と言いますのは、生贄は午前中に捧げられる決まりなのです。なので断頭シーンを見たくない方は店長のように午後から参拝することをお勧めします。
午後の参拝受付は13時からなので、ここで店長はお昼ご飯にしました。お豆とジャガイモのスープにチャパティという薄焼きパンを浸して食べると美味なのです。


一方、血しぶきが飛ぶ寺院の隣には下の写真のようにピクニック公園も併設されていて参拝に来た家族連れが昼食のサンドイッチなどを食べながらのどかに過ごしています。ネパール人がいかに生贄に慣れているのかが分かるというものです。

13時になりました。この頃には寺院の入り口には長蛇の列ができています。ちなみに生贄は午前中の受付なので並んでいる人たちは山羊や鶏は連れていません。

異教徒の外国人である店長は中には入れません。ちょっと離れた所から中をうかがうとお寺の中はこんな感じです。

中はこんな感じ

ご本尊
そもそもカーリーという名前は黒いという意味の言葉がもとになっているため、ご本尊のカーリーの顔は真っ黒です(ちなみにネパール語だと黒はカーロと言います、おそらく語源は一緒なのでしょう)。
さてご本尊も拝んだことですし帰るとしましょう。異教徒の願いまで叶えてくれるほど慈悲に満ち溢れた神様でもないので特に何も願いませんでした。逆に生贄もなしでお願いをしたら怒られそうで、そっちの方が怖いですから。
ここからだとバスの乗り換えも考慮してバクタプルに戻るまで3時間弱かかります。首都近郊の有名寺院である割には店長的には参拝に丸1日を費やす結構な遠隔地でした。山羊や鶏を連れてバクタプルからここまでお参りに来る人達は何を願うのでしょうか?


























































