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バネ鋼

おトイレ

2026年4月1日

  今回はおトイレの話です。
  これは避けてしまいがちな話題ですが、実は旅行者にとっては重要事項です。外出中にもよおした場合、日本ならコンビニや公園にトイレがありますが、ネパールではそうはいかないので旅行中にとても困ることになるのです。

  ネパールも首都圏でこそ最近はトイレが併設されたショッピングモールもできましたが、それも中心部だけです。更にいつぞやの店長日記でもお話ししたようにネパールには公園というものがほぼありません。コンビニもほぼありませんので切羽詰まってコンビニに入って用を済ませる、などという事もできません。
  小売店はあちこちにあるとはいえ通りがかりの外国人がトイレを借りるのは非常にハードルが高いものがあります。

  これがトレッキング中となるとまた話は別で、まあ何と言いますか歩いている時はその辺の茂みで済ませる事になるので街中よりむしろ困りません。ただ別の問題があります。それは宿泊するロッジのトイレのクオリティです。
  まずは基本を押さえるための比較対象としてネパールの中級ホテルのトイレ&バスルームをご覧ください。

トイレ

トイレ

  まずまず普通のトイレですね、日本のビジネスホテルのようです。

  では次に標高4,400mのロッジです。まず部屋がこれ。

トイレ

  もちろんトイレ付きではなく、トイレは廊下に出て突き当りにあります。
  これがトイレのドアですが、既にかなりいい雰囲気を醸し出しています。

トイレ

 開けて一歩中に入ると、こうです。

トイレ

トイレ

  粗末な作りですが、不衛生ではないのが救いです。

  もう一つ、ここから半日ほど下ったところにあるロッジのトイレも紹介しましょう。
  こちらは大変風通しの良い作りとなっております。

トイレ

トイレ

  また窓(といいますか壁の穴)からはシャクナゲの林を一望することができ、詫び寂びを感じさせる風流なトイレといえましょう。窓の位置から察するに、雨天時には使用者は更にダイレクトに自然を感じることになるのでしょう。

  実を言うと、上の2か所はまだ良い方だとお考え下さい。なぜなら行きたくなったら自分の部屋からロッジ内をちょっと歩くだけで行くことができるからです。
  けれどもトイレはロッジそのものからちょっと離れた所に別に建てられていることも多いため、悪天候時にはもうクオリティ云々ではなくその立地に泣かされることになります。
  無論、照明もありません。放し飼いの犬がいるケースなどは最悪です。

  普段は便利で清潔なトイレがどこにでもある日本に住んでいますが、トレッキングに行くとトイレの有難さに気づかされます。

運悪く雪中トレッキング

2026年3月1日

 店長の趣味はトレッキングです。ですが経験も浅く、持っている装備も軽いものですので、冬季にはトレッキングはほとんどやりません。
 しかしながらヒマラヤの天候はヒンドゥーの神々の気分次第ですので、自分の意志とは無関係に雪中トレッキングになってしまうこともあります。

 ヒマラヤの4,000m付近では普通は5月ともなれば山頂や谷筋に雪は残っているものの、そろそろ高山植物が咲き始める季節でもあるので大量の降雪はまずありません。そのはずなのですが、神々のご機嫌が悪いときには下の写真のような有様になります。

雪中

雪中

 せっかく咲いた高山植物も雪に埋もれてしまいました。まあヒマラヤの高山植物は可憐に見えてもこのくらいで枯れるほどやわではないので心配いりませんが。
 やわなのは店長です。防寒着の上からレインウエアを重ね着しても常に動き続けていなければ耐えられない寒さです。その辺に立ち止まって休憩すると凍えるので休憩はロッジに着いてからになります。ロッジに入ればさすがに食堂のストーブには火が入っています。

雪中

雪中

 暖かな食堂でほかほかの揚げジャガにヤクのチーズがかかっている軽食なんて食べたらもう動きたくなくなります。しかしここでぬくぬくして予備日を使い切ってしまえば帰国便に間に合わないという最悪の事態を招きます。
 従って震えながら歩き続けるしかないのですが、ここで別の問題が発生します。20cmも積もってしまえばもう道が見えなくなるという問題です。

 下の写真をご覧ください。池の周りにあるはずのトレッキング道が完全にわからなくなっています。

雪中

 こんな時は経験豊富なガイドにすべてお任せするに限ります。普段一人で歩く店長ですが、たまたまこのエリアはガイドなしでは立ち入れない所だったので助かりました。そのガイドも時々道を間違えてつつも大きく外れることはなく、無事に降雪地帯を抜けられました。
 1,200m下った本日の宿泊予定のロッジでは雪は雨になっていました。

 翌朝、雨は止まず濃い霧まで出ていました。景色が全く見えない上に雨の中を歩くとは、一気にやる気がなくなってバスに乗りました。昨日のうちにバスが通っている標高まで降りてこられたのはラッキーでした。

雪中

 バスで更に1,000mほど下ると雨雲を抜けてすっかりいい天気です。宿もゴージャスになりました。山の上は吹雪いているというのに完全に別世界です。神々もご機嫌を直してくれたのかもしれません。
 いままで地元の人たちが峠や中庭で神々に薫香をささげる姿をたびたび目撃してきましたが、なるほど、こういう事なら神々のご機嫌を取りたくもなるというものでしょう。

ネワールのアイデンティティ

2026年2月1日

  これはたまたま偶然なのかもしれませんが、最近よくネワール料理のお店を見る気がします。
  いきなりネワールといっても分かりませんよね。ネワールというのは首都カトマンズ周辺に多く住む民族のことです。ネパールという国は多民族国家で、約50もの民族集団で形成されています。その一つがネワール族というわけです。

  ネパールの民族集団にはかなり特色があって、生活圏や外見や服装がはっきりと違います。しかしながらこれまではその特色を打ち出した商売というものを街中であまり見かけませんでした。せいぜいが料理がおいしいと評判のタカリ族が経営するレストランと、チベットから亡命してきたチベタンによるカーペットや布製品くらいでしょうか。
  シェルパ族による山岳ガイドやポーターの仕事と、勇猛果敢で知られるグルカによる外人部隊のグルカ兵というのもありますが、ネパール国内で日常的に見かけることはありません。

  『ネワール』をコンセプトにした料理屋が目に付きだしたのは、コロナが下火になりネパールの観光業が息を吹き返し始めたあたりからのような気がします。それ以前では店長が知る限りではキルティプルという町にネワールレストランがありましたが、その一軒しか知りません。

  タカリ族の経営するレストランはおいしいタカリ料理が食べられるのがウリです。ですがネワールレストランはただネワール料理を出すだけではありません。日本にあるインド料理屋を思い浮かべてください。お店の外観や内装やサービスがいかにもインドという感じに統一されてエンタメ性がありますよね?あんな感じでネワール族の伝統全般をウリにしているのです。

下の写真をご覧ください。

ネワール

ネワール

  最近バクタプルにできたお店です。前面のほぼすべてがガラス張りで、中に入ると伝統的なネワールの台所が再現されています。日本の焼き鳥屋やピザ屋なんかも作っているところをパフォーマンス的に見せてるお店がありますがそれと同じです。内装もネワール感満載です。







  最初の動画は
チャタモリというピザ的な食べ物で、生地は米の粉です。二番目の動画はウオー(またはバラ)と言って豆の粉で作ったお好み焼き風の食べ物です。ここでは鉄板で焼いていますが油で揚げてさつま揚げ風にしても美味です。どちらもちゃんとした食事というよりはおやつや軽食によく食べます。三番目の動画はネワール料理のアラカルトです。
  普通はネワールのご家庭ではお客様にあまり台所を見せたりしません。なので伝統的な台所で料理が作られる様子が見られるレア感があります。

  ネパールを旅行していてこんなお店を見かけたら是非中に入って食事をしてみてください。その辺のありきたりのレストランで食べるよりずっと異国気分が味わえることでしょう。

ネパールの教科書 その3<地下資源>

2026年1月1日

  今回はネパールの地下資源のお話です。
  当店のネパール側スタッフの子供から譲り受けたネパールの高校の経済の教科書を読みますと、国内の地下資源についてかなりのページが割かれていました。
  今まで店長はネパールにはほとんど地下資源なんてないと思っていました。鉄や石油などはほとんど全量インドや中国からの輸入品ですので、他の資源についても国産の鉱物はせいぜい若干の宝石と岩塩が取れるくらいかなと。
  しかし教科書を読んでみると、どうしてどうして沢山の資源があるではないですか。なのになぜ国産品が出回っていないのでしょう?
地下資源
                         高校の社会科(経済)の教科書


地下資源

  ざっくり訳してみますと、

“ネパールは非常に地下資源が豊富です。鉄や銅、石灰岩、天然ガス、石炭、鉛、マグネサイト、ニッケル、大理石、雲母などが各地に埋蔵されています。今までに若干量は使われてきましたが、ほとんどは未利用のまま残されています。”

  という事ですので、資源がないのではなく利用されていないだけのようです。おそらく宝石も開発されていないだけで探せばまだまだたくさん埋もれているのでしょう。将来の貴重な財源になるかもしれません。
  宝石と言えば、実際にそれを裏付ける証拠をヒマラヤトレッキング中に発見したことがあります。
  下の写真はランタン国立公園の標高4,300m付近のトレッキング道です。

地下資源

  もはや森林限界をとっくに過ぎていますので荒涼とした風景です。あたりを見回してももう樹木は生えておらず草やコケ類ばかりです。

地下資源

  しかし何か黒い粒が岩の中に埋まっているように見えます。

地下資源

地下資源

  これは、まぎれもなくガーネットの粒です。
  過去の店長日記でバクタプルの街中の敷石にガーネットという宝石の一種が含まれていたという話をしたことがあります。その敷石はてっきりインドあたりから運んできたものかと思っていましたが、ひょっとするとネパール産だったのかもしれません。

  教科書に載っていた鉄や銅といった他の資源はトレッキング中に見つけたことはありません。といいますか、目にしているのかもしれませんが素人には見分けがつきません。
  さて、資源があることはわかりました。しかしこんな高山に資源があっても開発は非常に困難でしょう。空気が薄いとエンジンの出力が大きく落ちるため採掘用の重機が力を発揮できなくなります。また作業員の確保も難しいでしょう。作業以前にまず高地順化できない者は採用できません。このあたりが“未利用のまま残されています”と書かれている理由なのかもしれません。

  教科書にはもう一つ地下資源が開発されていない理由が説明されています。

“探鉱と採鉱には膨大な資本の投入が必要になります。しかしながらネパールにおいては資本の不足が最大の問題になっています。”

 ・・・・やっぱり先立つものはお金なんですね。世界最貧国の一つであるネパールに一番無いものがお金なんです。
  まあ、いつかネパールにそこそこのお金ができる日まで資源を温存しておくというのも悪い手ではありません。外国の資源メジャーにヒマラヤを荒らされるよりはよっぽどマシだと店長は思います。

ネパールの教科書 その2<世界への貢献>

2025年12月1日

  前回の店長日記でネパールの教科書を紹介しました。前回は教科書で大きく取り上げられていた人口問題のお話でしたが、今回はネパールの世界への貢献のお話です。

  教科書には、特に歴史や社会の教科書にはその国が世界をどのようにとらえていて何を重要だと思っているのかが強く反映されます。また自国の「誇り」や「スタンス」のようなものも見て取れます。
  中学二年生の社会の教科書を見ますと、ネパールが世界に大きく貢献している事が随所で取り上げられています。

  でもちょっと不思議ですよね?ネパールは国土も日本の4割ほどと小さく、経済規模も世界99位で名目GDPベースで日本の約90分の1しかありません。このヒマラヤの小国がどのような貢献をしているというのでしょうか?
  それは国連平和維持軍への派兵なのです。ネパールが誇るグルカ兵は世界最強ともいわれる兵士です。彼らを含む兵士たちを世界の紛争地域に派遣して紛争が戦争や大量虐殺に発展する前に火消しをする、これは世界への大きな貢献です。

貢献

貢献

  2023年のデータではネパールの平和維持活動(PKO)従事者は並みいる大国を押さえて世界最多の6,247名となっています。これはネパールにとって大きな誇りであり、教科書で大々的に取り上げて子供たちに知らしめるべき事なのです。
  ちなみに日本は店長が調べた限りでは同時期で10名ほどでした。日本には日本なりの制約があっての事ですが、この差は圧倒的です。

  教科書の中でもう一つ特筆するべき記述がありました。「良い政治とは」という一節があるのです。
  そこにはこう書かれています。
良い政治とは、汚職を最小化し、少数派の意見を考慮し、社会的弱者の声に耳を傾けることを保証するものである。一方、悪い政治には多くの堕落の余地がある。
 つい2,3か月前にネパールで政治家の汚職に耐えかねた民衆によって暴動が発生し。汚職政治家が放逐され、新政権が発足しました。
  国会議事堂が炎上するほどのかなりの暴動だったのでご記憶の方も多いでしょう。これではこの教科書で学んだ子供たちに顔向けできません。



  今後ネパールの政治がどのようになっていくのかは分かりませんが、教科書にはこのようにも書かれていました。
良い政治とは、社会における現在そして未来のニーズに敏感なものである。
クリーンな政治が国民のニーズであるならば、進むべき道は明らかです。

ネパールの教科書 その1<人口問題>

2025年11月1日

  当店には日本側のスタッフと現地ネパール側のスタッフがおります。その現地スタッフの子供が去年高校を卒業して、教科書はもういらないというのでまとめて全部もらってきました。中学までさかのぼったらかなりの量になって、スーツケースがパンパンになりました。
  時々暇を見つけてこの教科書に目を通してきましたが、なかなか興味深いものが見えてきましたのでご紹介します。

  ちょっと大げさかもしれませんが、教科書を見るとその国が分かります。特に歴史や社会の教科書にはその国が世界をどのようにとらえていて何を重要だと思っているのかが強く反映されているように思われます。また「誇り」や「スタンス」のようなものも随所ににじみ出ております。



  これは8年生の社会の教科書です。ネパールの学校制度は日本のような6・3・3制ではなく5・3・2+2制です。なので8年生は日本の中学2年生に相当します。

  左上のつり橋はネパール北部の山岳地帯、中央のネワール様式の建物はネパール中部の旧ゴルカ王宮、右端はネパール南部のタライ平野、左下は多分摂政を務めたラナ家のビール・シンシャー、中央下は言わずと知れたギリシャのパルテノン神殿、右下のおじさんは当時の国連事務総長です。
  つまりネパールの地理と歴史、そして世界との関りを表現した表紙なのです。パルテノン神殿とゴルカ王宮を上下に並べたあたりに誇りが垣間見えます。

  さて内容ですが、最も多くのページが割かれているのは人口問題です。なんとこれだけで77ページを費やしています。それもそのはずで、今ネパールでは人口が爆発的に増加しているのです。
  4年前の統計によると毎年おおむね1%ずつ人口が増え続けており、ここ10年間で270万人の増加となっています。
  山がちで平地が少なく国土も日本の40%しかないヒマラヤの小国にとって+270万人はもう受け入れられる上限ギリギリと言っていいでしょう。ネパールにとって人口増加は待ったなしの喫緊の課題なのです。

  ちなみに日本は同じ期間で230万人の減でした。日本の社会の教科書も人口問題を取り上げていますが、当然論調は真逆で少子化対策に主眼が置かれています。ただ残念なことに手元にある高校の教科書では割かれたページはわずか2ページです。ネパールを見習ってもっと本気を出してほしいものです。

  教科書の記述も中学2年にしてはかなり突っ込んだ本気度が高い表現になっています。一例をあげると個人の取り組みとして16通りもの避妊の方法が解説されていたりします。また社会全体の取り組みとして人口増加の原因を下のように分析しています。

原因
1.文字が読めないことによる無知
  → 2021年時点で識字率は71%、つまり29%は字が読めない
2.貧困
  → 2010年時点で貧困率は25%、つまり4人に一人が1日に300円以下しか稼げない
3.伝統的価値観
  → 女性は早く結婚して子供をたくさん産むのが善である、という風潮
4.宗教的信念
  → 男児を生まないのは悪であり、家が断絶したら死んでから地獄におちる、という信念

  上記の1~4の改善には膨大な時間とお金と努力が必要なのは言うまでもありません。中でも3と4を変えていくのは極めて困難でしょう。ネパールでは伝統や宗教は日本人の想像を遥かに超える力を持っているからです。
  昔の日本にも似たような価値観はありましたが、21世紀の現在の教科書に「地獄に落ちる」事はないので子供は女の子でも問題ないと大真面目で書いてある所に闇を感じます。

  一方で伝統や宗教的信念に正面から逆らってでも人口増加を止めようとする所にこの国の不退転のスタンスを感じます。このまま何も手を打たずに数十年が経過して、270万人の増加があと数回続いたならば、国連から最貧国に指定されているこの小国はすべての資源や予算を食いつぶして崩壊すると分かっているからです。

人口問題

人口問題

  教科書の人口問題の章のまとめとして、大家族(上側の画像)ではなく小さな家庭(下側の画像)を持つことが幸せにつながると力説されています。でも「西洋や日本では小さな家族でみんなハッピー」というようなやや誇張された説明まであるのは如何なものか? 日本は少子高齢化で困ってるんですが…、過ぎたるは及ばざるがごとしです。

山羊を食べる日

2025年10月1日

  ネパール人は宗教行事を大切にする人達だからでしょうか、ネパールは祝祭日が多い国です。そして全国的な祝祭日だけでなく特定の地域や民族に限定されたローカルな祝祭日もまた多いのです。
  世界遺産に指定されているカトマンズ盆地に住むネワール族には「山羊を食べる日」があります。より正確には「山羊の血を神にささげて、残り物の肉をおいしく頂く日」でしょうか。
  この日は盆地内の会社も学校もお休みになります。なぜならこの日は盆地内の一族が本家(?)に集まり、たくさんの人手を要する一大イベントになるからです。学校や仕事になんて行っている暇はありません。

  この日が近づくにつれて街中で山羊をよく見かけるようになります。大抵は男の人が首にひもをかけられた数頭の山羊を引いて歩いています。ぱっと見は犬の散歩ならぬ山羊の散歩のようにも見えますが、そんなのどかなものではなく山羊にとってはまさにドナドナです。
  行先は肉屋さんではなく各ご家庭になります。そうです、家で生きた山羊を屠るところからこのイベントはスタートするのです。

  ここから先は少々スプラッタですので、苦手な方はやめた方がよろしいかと。

  山羊を捌いてその血を神にささげるのは男の仕事とされています。血をささげた後に山羊は首を落とされます。ここで活躍するのがククリなのです。日本でよく使われているステンレス製の包丁などでは山羊の首は落とせません。力と重さでぶった切る性能に特化した刃物が必要です。

山羊

  首を落としたら次は内臓を取り出します。内臓は中まできれいに洗って煮物にします。体は毛を剃ってから残りの毛を火で完全に焼き切ります。ここまでするのは皮も一緒に食べるためです。
  捌き終わって肉塊と化した山羊を料理するのは女の仕事とされています。皮付きのまま調理された肉は煮込むとトロトロになってまさにコラーゲンです。

山羊
                  内臓をきれいにしているところ

山羊

                    バーナーで毛を焼き切っているところ

  このようなスプラッタな光景はさすがに首都カトマンズの繁華街では見られませんが、バクタプルのちょっとした路地や広場などでごく普通に見られます。
  親族が集まって家の軒下で男も女もごちそうのために力を合わせて作業をする。この風景を見ていて何だか既視感があると思えて仕方がなかったのですが、分かりました、お正月の餅つきです。
  親族が集まる伝統行事である点や子供が周りではしゃいでいる点、男は力仕事、女は料理という点もそっくりです。店長にとって子供の頃に親戚の家で行ったお餅つきが楽しい思い出であるように、ネワール族の子供たちもまたこの楽しいイベントを一生忘れないのでしょう。

  料理ができれば宴会の始まりです。大人数の一族の場合は広場に天幕を張っての大宴会になります。大きさにもよりますが、1頭の山羊からは10kg前後の肉が取れます。親族一同でおなか一杯食べられる量です。伝統衣装のサリーで着飾った女性が多いのも何だか日本の正月みたいです。

山羊

山羊

  会場の隅にはおこぼれの内臓を噛む野良犬や順番待ちの山羊がいたりして何だか諸行無常を感じます。

山羊

山羊

  宴会が終わると飛び散った血しぶきと儀式の痕跡が恐怖映画のワンシーンのようです。しかし誤解してはいけません、下の写真は殺人現場ではなく楽しい伝統行事の跡なのです。

山羊

山羊

  この大イベントの実施には念入りな準備と親族の結束が必要です。もはや学校行事や地域の秋祭りに実施されるだけとなりつつあるほどに廃れてしまった日本のお餅つきとは違って、一族で支えあって今日の繁栄を築いてきた民族であるネワール族にとってこれは現役バリバリの重大行事です。
  ネワール族のパワーを感じたい方は毎年4月末から5月初め(ビクラム歴なので年によって日にちはバラバラです)をカトマンズ盆地で過ごしてみてはいかがでしょうか? 


シャクナゲに埋もれた村

2025年9月1日


  今回はベストシーズンのシャクナゲを見るためにヒマラヤ山中の村に行った時のお話です。
  ヒマラヤ山中にひっそりと咲くシャクナゲはとても美しいものです。その可憐さとヒマラヤに咲く希少性から赤いシャクナゲはネパールの国花に指定されており、政府によって保護されています。

  実は店長は何度もヒマラヤを訪れているにもかかわらずいつもシーズンを逃してしまい、目に入るのは散りかけの花ばかりで悔しい思いをしてきました。なので今回は時期と標高を計算してベストの時期にシャクナゲがわんさか咲いている場所に行ってみることにしたのです。
  目的地は首都カトマンズの北に位置するランタン国立公園の中にある標高3,350mのシンゴンパという村です。富士山で言えば8合目の高さですね。

  まずはバスに乗ってふもとの町ドゥンチェまで行きます。バスが出る時刻は決まっていますが、日本とは違い到着する時刻は未知数です。天候や道路状態、そして運に左右される要素が大きいからです。この日は天気は良いが運がありませんでした。
  出発して2時間後、エンストしたバスが道を塞いでいて片側交互通行になっている場所があり、ひどい渋滞になっていました。ようやくそこを通り過ぎて更に1時間後、今度は幅1.5車線しかない細い山道を大型トラックが完全に塞いでいて交互通行もできない状態になっています。
  このトラックはエンストでもなんでもありません。車体が重いのに加えて道が舗装されていないためタイヤが滑って坂道を登れないでいるのです。

  バスならいったん乗客を降ろして車体を軽くして通過するところです。しかしこのトラックはカラ荷なので降ろす荷物がありません。荷物が重いのではなく後ろの荷台そのものが重くて登れないでいるのです。ここは勢いをつけて突っ切るほかありません。それでダメならいよいよ店長が乗ったバスの乗客が降りて皆で押す羽目になります。ヒマラヤバス旅行あるあるですね。
  幸い今回は何度目かのチャレンジで登り坂を登り切ることができたので押さずに済みました。やれやれです。



 そんなこんなで時間を食ったためドゥンチェに着いたのは午後4時。カトマンズから8時間かかりました。まずはここで一泊します。

  翌朝7時に宿を出ました。なるべく早くシンゴンパに着いてシャクナゲを堪能したいからです。驚いたことに歩き始めてすぐに道はコンクリートの登山道になりました。以前訪れた時はこんなものはなく、普通の土や岩だらけの地面だったはずです。
  雨季になったらこのコンクリートが威力を発揮するのでしょうが、歩きやすくはあっても風情がなくなりました。整備し過ぎるのもいかがなものかという思いと、現地住民的には便利になって良かったという思いでちょっと複雑です。

  登り始めてから5時間、1,400mを登り切り、シンゴンパに着きました。カトマンズでは夜も扇風機をつけっぱなしにしないと眠れないくらい暑かったのに、シンゴンパは晴天の真昼にもかかわらず気温は体感12,3度といったところ。さすがは標高3,350m、フリースの上着を着ることにしました。

  さてお目当てのシャクナゲですが、とにかく凄い! まるでシャクナゲの林の中に埋もれるように村があります。以前の店長日記にも書きましたがシャクナゲは葉に毒があるので家畜はシャクナゲを食べません。そのため家畜をたくさん飼っている村の周辺はシャクナゲだけが食べ残されて、ほとんどシャクナゲの純林のようになるのです。
  ただ一つ残念だったのは、これでも満開の時期を少し過ぎてしまっていたことです。話を聞くと今年は例年より10日ほど早いとのこと。これも地球温暖化の影響なのかもしれません。



シャクナゲ

シャクナゲ
  


  シャクナゲは赤色だけではありません。白や黄色やピンクのシャクナゲもあります。意図したわけではないでしょうが、ここまでくれば立派な観光資源です。あとはここに来るために1,400m登ったりバスを降りて押す覚悟がある物好きがどれだけいるか、ですね。
  物好きな店長としては大満足でした。

公園がない

2025年8月1日

  最近ネパールにレジャー施設が増えたと感じます。
  ちょっと前までは観光客向けのラフティングなどを除けばネパール国内に地元民向けのレジャー施設と呼べるようなものはほとんどなかったのですが、ここ数年でちょくちょく目にするようになりました。

  以前の店長日記でも紹介した屋内スケートリンクや観覧車もある大規模遊園地(こっちはかなり前からありますが)などが存在できるということは、それを支えるだけのレジャー人口があるという事です。

レジャー
                         カトマンズ市内のスケートリンク

レジャー
           カトマンズファンパークの観覧車

  必要不可欠ではない事に少なからぬお金を出せる人がたくさんいるのですから、それだけネパールが豊かになった証拠とも言えます。
  ネパールでは公費で子供の遊び場を整備するという感覚が薄いのか、スポーツを振興するつもりがないのか、単に予算がないのか知りませんが、公園というものをまず見かけません。
  そういう訳ですから公園以上にお金がかかる大人が楽しめるレジャー施設なんて政府が作るわけがありません。作るとすればそれは民間の資本になり、採算が取れる必要があります。
  まあ首都圏だけではありますが、ここ数年でようやくその条件が整ったという事でしょう、喜ばしいことです。
  下の写真はバクタプルのポカリ(四角い池)にできた水上足漕ぎボート屋です。平日の昼間でも若者グループで結構にぎわっています。



レジャー
              ポカリの足漕ぎボート、ちゃんとライフジャケットを貸してくれます

  ただ、子供が無料で遊べる施設がまだ少ないのは残念です。そもそもネパールには子供のための公共の公園というものがまずありません。
  一方、日本では都市公園法という法律がありますし地方自治体が条例で定めてもいますので、ある程度の人口に対して一定以上の面積の公園の造成が必須になっています。
  ですからちょっとした住宅街には遊具や砂場がある公園がどこかしらにあるのが普通です。

  少々古い統計ですが、日本では平均して一人当たり8.4平方メートルの公園があるそうです。これは約畳5枚分に相当します。その気になれば全国民が公園で生活できそうな広さですね。
  という事は500人規模の小街区ひとつに対してバスケットボールのコート10個分という計算になります。
  実際は郊外に自然公園やキャンプ場といった住民共通の大型施設があったりしますので、そちらに面積を割かれて住宅街の公園は小街区ひとつに対してコート1個分といったところでしょうか。

  さてネパールに話を戻しますと、レジャー施設はいいとして無料の公園の整備にはまだまだ時間がかかりそうです。ではお金のない子供たちはどこで遊べばいいのでしょう? さらに言えばレジャー施設に行けない大人やレジャー施設なんて嫌いな大人はどこで余暇を楽しめばいいのでしょうか?
  大丈夫です、ネパールには子供も大人も楽しめる伝統的なレジャー施設があります。それは『お寺』です。

  日本では日常的にお寺に行く人は少ないかもしれません。訪れるのはせいぜい葬式や墓参りの時くらいであって、子供連れで遊びに行く場所ではありません。
  でもネパールでは違います。あくまで店長の印象ですが、お寺の参拝は大人にとってレジャーであり、子供にとっては良い遊び場になっているように思われます。しかもそのお寺が日本の公園を上回る密度で存在するのです。

  上の写真はバイラブ寺院で、大きな通りに面しているせいもあってこれまたにぎわっています。後ろの広場では子供が走り回っており、車も入れないので安全な運動場と化しています。
  下の写真のお寺の前の広場のなんと広いことか!どんなに走り回っても怒られません。

レジャー

レジャー

  とはいえ、お寺があるから公園がいらないとは思えません。いろいろな遊具で子供たちを遊ばせてあげたいです。ブランコがあるだけでどれだけ子供たちが喜ぶでしょう。
  問題山積のネパール経済ですから、子供の福祉にふんだんにお金が使えるようになるのはきっとずいぶん先の事になると思われます。まして不要不急の公園整備事業ですから優先順位も低いでしょう。
  でもこの国が過去30年間で少しずつ良くなってきているのを店長はこの目で見ています。ですからきっといつかは子供が無料で遊べる公園が整備されるはずです、いつになるのかは分かりませんが…。

サンガの大シバ神

2025年7月1日

  奈良や鎌倉に大仏があるように、ニューヨークに自由の女神があるように、ネパールにはサンガマハディブがあります。サンガマハディブは巨大なシバ神像なのです。
  まずはその雄姿をご覧ください。



  すみません、あまりにも大きすぎて上半身が見切れています。下の写真に写りこんでいる人間の大きさと比べてみてください。
  サンガマハディブは身長43.5mあります。現存する世界最大の青銅像である奈良の東大寺の大仏が約15m(仮に立ち上がったとしても30m弱)、ガンダムが18m(実在しませんが)ですのでその大きさが分かります。
  上の動画では全体に足場が組まれていますが、これはネパール最大のお祭りであるダサインを前にしてお化粧直しをしているからであって、普段はむき出しの姿です。材質は不明ながら色からすると銅製のように思えます。ちなみに自由の女神も銅製で、最初は銅色だったのが風雨にさらされるうちに錆びて緑色になったそうですので、何十年か後にはサンガマハディブも緑色になっているのかもしれません。

大シバ神像

大シバ神像
                 空にそびえる銅(あかがね)の城

  サンガマハディブがあるカイラシュナートはカトマンズ盆地の東端の高台の上にあります。ここから先は盆地が終わって山がちな地形になります。像は西を向いて立っているのでちょうど盆地全体を見下ろしている感じです。
  交通の便という意味でもなかなかの好立地で、ネパールの交通の大動脈の一つであるアルニコハイウェイ沿いにあるため、カトマンズや当店の拠点があるバクタプルからバスで簡単に訪れることができます。
  にもかかわらず今の今まで店長が訪れてた事はありませんでした。実はこの像は大仏や自由の女神とは違って最近(と言っても十年ちょっと前に)作られたばかりで、通りがかるたびにバスの窓から「あれ?何か建ってるけどなんだろう?」と思って見ていたらコロナが流行り始めて海外に出るのが難しくなってしまい、ようやく最近になって行ってみたという訳です。

  ここを訪れる方は、まずカトマンズやバクタプルから東に向かうバス(たとえばドゥリケル行き)に乗って、「サンガ」というバス停で降りてください。カトマンズからなら時間帯にもよりますが1時間ちょっと、バクタプルからなら20~30分といったところです。
  常に像が見えていますので迷う事もないでしょう。バス停から歩いて15分ほど丘を登れば到着です。

  ここを訪れたのならばついでに名物のつり橋も渡ってみましょう。スカイブリッジと呼ばれるこの橋は歩行者専用の橋で、店長の歩測ですが全長約200mありました。ここまで長い歩行者用のつり橋は日本にもそう多くはありません。でもネパールは山国なのでこのレベルのつり橋は結構あるような気がします。

大シバ神像
 



   足元の隙間から下を走る車が見えます。もしこの橋が無ければ30分以上はかかるであろう対岸までわずか2、3分です。でも風が強い日は下を歩きたいです。

  サンガマハディブはシバ神像としては世界一の大きさだそうですのでこれから益々観光客が訪れるでしょうし、時が経てばワンチャン世界遺産も狙えるかもしれません。
  これを読んでいる皆さんも今のうちに大シバ神像を見ておいて、50年後くらいにイイ感じに緑色に錆びた頃に「いやぁー、自分が行った当時はまだ出来たばかりでさぁ、銅色が綺麗だったんだよね」とか言って自慢するのも一興かと。

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