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バネ鋼

世界で最も美しい谷 ≪ランタン谷≫ その2

2025年4月1日

  二日目は約1,300mの登りになります。こんな感じの石段のような結構急な登りです。しかもせっかく登ったのにまた降りるというアップダウンが多いので体力を使います。



  登り始めてしばらくして、遅れ始めた店長の荷物をガイドのチャイテさんが持ってくれようと声をかけてくれました。でも意地を張って持ってもらいませんでした。なぜならここで持ってもらったら「自力ではランタン谷まで行けない」と宣言したも同然だからです。世界で最も美しい谷に自分だけの力ではたどり着けない、などということを認めるわけにはいきません。
  見かねたチャイテさんはその辺の藪にガサガサ入って行き、竹を折って戻ってきました。そして手と足とその辺の石だけで手早く杖を二本作ってしまいました。お見事!手製のトレッキングポールの出来上がりです。
  使ってみて分かりました。段差を上る時には一瞬ですが足に強い力が必要になります。一方筋肉は中くらいの力を出し続けるのは得意ですが、一瞬とはいえ足を踏み出すたびにピーク出力を出すのは辛いものがあります。
  ポールはそのピークに必要な力の一部を補ってくれるので力が平均化されるのです。その結果、楽に足を動かし続けることができました。素晴らしい!今まで使わなかったのがアホらしくなるくらいの威力です。

  強力な武器を得たおかげで12時半にはラマホテルに到着し、お昼ご飯になりました。それにしてもなぜこの辺りがホテルと呼ばれているのか分かりません。小ぶりなロッジが数件あるだけなのですが…? ダルバートとお茶で750ルピー(約750円)と平地の2~3倍のお値段です。さっきから頻繁に道ですれ違うラバの隊商がここまで運び上げているのですから仕方ありません。



  道はおおむね川に沿っているため何度も橋を渡ります。こんな感じの橋です。ステンレス製でしょうか。でも橋の下に以前落ちたらしい古い橋の残骸が見えるのは精神衛生上よろしくありません。架け替えた時についでに撤去してほしいものです。
  雨季の終わりの激流は、落ちたら水泳のオリンピック選手でもない限り命はないでしょう。



  峠に着くとチャイテさんはちょっと待てと言います。ザックからマッチとお香を取り出すと火を付けました。ランタンの神々に捧げる薫香であり安全祈願です。線香がなければ杜松の葉を使ったりします。これはシェルパ族であるチャイテさんを含む高地に住むチベット系の民族の習慣であり、このあたりでは普通のことです。

ランタン谷




  出発から8時間後、本日のお宿のチューカモンホテルに到着。ホテルのちょっと手前あたりから7,000m級のランタンリルンが良く見えます。

ランタン谷
                         ランタンリルン(7,234m)

  夕食はホテルの食堂が団体客で埋まっていたので台所で食べさせてもらうことになりました。台所は火を使っているせいで温かいので店長的にはむしろこっちの方が居心地がよろしいです。怪しいネパール語を話す珍しいトレッカーに皆親切にしてくれますし、時々団体客向けの料理をつまみ食いさせてくれたりして…。


                                台所

次回へ続く

世界で最も美しい谷 ≪ランタン谷≫ その1

2025年3月1日

  谷と言ったら何を思い浮かべるでしょうか。 ムーミン谷? 風の谷のナウシカ? グランドキャニオン? 今回はムーミン谷のように穏やかで、風の谷のように緑にあふれ、グランドキャニオンのように壮大な、ヒマラヤ山脈の奥地に広がる美しい谷をご紹介します。その名をランタン谷といいます。

  1938年にイギリスのエベレスト遠征隊の隊長を務めたビル・ティルマンはランタン谷を『世界で最も美しい谷の一つ』と評しています。
  店長も長いこと行きたかったのですが、さあ!と思ったときにコロナが流行り出して機会を逃してしまいました。それから待つこと5年、いよいよのランタン谷なのです。

  出発したのは雨季も終わりがけの9月でした。まずは前回の店長日記で紹介したマチャポカリの野菜市場からバスに乗ります。目的地はランタン山群の入り口の町であるシャブルベシです。
  バスは結構大型のバスで、7:40の始発の時点で既に席は7割がた埋まっています。途中で人がどんどん乗り込んできてピーク時には乗車率150%。道が悪い上にあまりにもタイヤに負担がかかりすぎたためなのか、途中の休憩所でタイヤを見ると湯気が上がっていました。大丈夫なのか!? 






  途中ランタン国立公園の入域料3,000ルピーを払い、セキュリティチェックポストで荷物を調べられて、結局到着まで9時間半かかりました。直線距離だとほんの50Kmほどなのですがアップダウンの激しい曲がりくねった悪路なので仕方ありません。これでも一昔前に比べると便利になった方です。

  さてシャブルベシに到着した時点でもう薄暗くなっていましたので、店長は当然この町で一泊するものだと思い込んでいました。しかしガイドのチャイテさんは構わず山道を歩きだします。
  そうです、ここはガイド必須の国立公園なのでいつものように一人でふらふらトレッキングではないのです。このチャイテさんは私が日本を出る前に当店のネパール側のスタッフがあらかじめ用意してくれたガイドで、とても良い人なのですが、いかんせん英語がほとんど話せません。

  どうやらスタッフは私のネパール語力を過大評価しているようです。しかし実際は恥ずかしながら片言がやっとの2歳児以下なのです。一見ちゃんと会話しているように見えても勢いとはったりでごまかしているにすぎず、相手の言っていることは半分も分かっていません。
  いまさらどうしようもありませんが山中で緊急事態でも起こったらと若干不安があります。まあ、おかげでトレッキング中にネパール語の勉強がとてもはかどりました。
  話を元に戻します。チャイテさんは懇意にしている宿があるのでそこに行くようです。

店長 「カティ タラ ツァ?(どのくらい遠いのですか?)」

チャイテさん 「アリアリ(ほんのちょっとだよ)」

  ネパール人のちょっとは信用できません。案の定、小雨の降るなか日暮れも過ぎた暗い道を1時間歩かされました。で、宿に着いてみると、営業してませんでした。まあ今は雨期の終わりがけのシーズンオフなので営業していなくても不思議ではありません。が、事前に連絡くらい入れといて欲しいです、チャイテさん…。
 ここから引き返す気にはなれなかったので、急遽この宿の息子さんの自室を空けてもらって、生活感タップリの部屋に一泊することになりました。
 チャイテさんの名誉のために書いておくと、営業していないことを除けば宿の人も親切で食事もおいしい良い宿でした。庭には防犯用のチベット犬もいますので侵入者対策もバッチリです。まあ客が泊まるはずがない自宅の方に泊ったので店長も侵入者枠に入れられたらしく、盛大に吠えられましたが。

ランタン谷
                     チベット犬 目つきがヤバイ

  翌朝、朝食はチベタンブレッド(たっぷりの油で作る、半分揚げたようなホットケーキ風のパン)にハチミツを塗って食べました。市販品ではなくこの辺で採れたローカルハチミツだと言っていました。
  7時半に宿を出発して歩き始めて2時間ほどで、ハイありましたローカルハチの巣が。

ランタン谷
                       落ちたら助かりませんね

ランタン谷

  凄い断崖絶壁のちょっとオーバーハングになった雨が当たらなさそうな所にくっついている丸い板状のものが巣です。どれほどの危険を冒してあれを採取するのかと思うと、たっぷりハチミツを塗ってしまったことがなんだか申し訳なくなります。

次回へ続く

野菜市場

2025年2月1日

  ネパールの首都カトマンズの中心からちょっと北に行ったあたりにナヤバスパークという100m四方は優にある大きなバスターミナルがあり、そこからほんの3分も西に歩けばマチャポカリと言われる場所に着きます。 そこはバスターミナルと言えるような大層な設備は無いのですが、道路沿いにはバスが停まり、チケット売り場が立ち並ぶにぎやかな一帯になっています。
  ここから出発するバスは首都の北側に広がるヒマラヤ山脈へと向かい、ヘランブーやランタン谷方面へ物資やトレッカーを運ぶ足となっています。

  ですがそれだけではありません、一帯は巨大な野菜市場でもあるのです。これまた何の設備もないただの路上にカゴや御座が並び、そこに野菜・果物・キノコなどなどが山盛りに盛られている光景が道路沿いに延々と続いています。
  トレッキングに行かない人でも朝早起きをして見に行く価値がある活況ぶりです。下の写真をご覧ください。

野菜
  
  この国で売られている四季折々の野菜類は全種類ここに揃っているのではないでしょうか?半分は日本でも見かける野菜ですが、残りの半分は味も食べ方も知らない初見の野菜たちです。
  しかし知らなくても味や食べ方が想像できるものもあります。香菜(シャンツァイ)の隣にある異常に長いものはインゲン豆の一種のようです。その下は異常に太いですがキュウリなのでは? そしてその下は冬瓜の仲間でしょうか?

野菜

野菜

野菜

  一方で全く正体不明なものもあります。この細かいトゲが生えた実はなんでしょう? そしてナスの隣にあるこの1mくらいありそうな長いものは?

野菜

野菜

  また日本にもあるけれども日本では食べない部分を食べたりもします。その代表がかぼちゃのツルでしょう。油と相性が良く、ツルだけではなく花も一緒に油で炒めたものが店長の好物です。



  こんな正体不明な野菜たちですが、実はネパールを旅行するほとんどの日本人が口にしているはずなのです。そうです、国民食であるダルバートにたっぷりと使われているからです。
  ただしカレー煮やカレー炒めになっていて素材の味や姿が分からなくなっているため、結局その野菜自体の味は分からないまま食べたことにすら気付かずに帰国していると思われます。

  食べ慣れれば美味しい野菜なのに、残念です。世界のグローバル化とか言われている昨今ですので、そのうち日本のスーパーに並ぶ日が来ることを期待しましょう。

街中が犬カフェ状態

2025年1月1日

  犬カフェってご存じでしょうか?店内にその店専属の犬がいて、触ったりなぜたりできるお店の事です。飲食の提供がなくただ単に触るだけのお店や、自分の犬を連れて行くことができるお店もあります。

  調べてみると店長が住む市内に20軒以上見つかりました。東京都なら100軒はくだらないでしょう。世の中犬好きの人ばかりではないにもかかわらず、それなりの人数が集まってきてお店が成り立つのですから凄い事です。

  人気の最大の理由は犬が魅力的な動物だからでしょうが、昨今の日本の社会環境にも原因があると思います。
  まず身の回りに犬がいなくなりました。飼い犬は沢山いますが、散歩中に目にしたからといって勝手に触るわけにはいきません。
  50年前はそこら中に野良犬が歩いていたのです。なので誰でも気が向けば野良犬をなぜたり餌をやったりも普通にできたのです。そう、街中が犬カフェ状態だったのです。
 この当時に犬カフェを開いても多分あまり流行らなかったのではないかと思います。なぜなら犬なんてわざわざお金を出さなくても野良犬がそこら中にいるからです。犬を気軽に触れなくなったからこその犬カフェの繁盛だと思います。

  一方でそこら中に野良犬がいる事の負の側面もありました。昔は人が犬に嚙まれるなんて日常茶飯事すぎて「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」なんて言われていました。現代では犬が人を噛んでもニュースになりますよね?そのくらい珍しくなったという事です。
  また狂犬病も大きな問題で、100年前の日本では年間1,000人以上が死亡していました。これじゃいかんという訳で狂犬病予防法ができて野良犬も駆逐され、今では発症者はほぼゼロです。

  前置きが長くなりました。ネパールでは50年前の日本以上に野良犬があふれています。もう、広角で写真を撮ると一匹は映り込んでしまうくらいにいます。車もバイクも犬を避けながら走っています。
  歩くのに邪魔な場所に昼寝をしていても誰も蹴飛ばしたりしません、ちゃんと避けたり跨いだりして歩いています。もう居るのが当たり前なので、水溜まりを避けるような感覚です。

犬カフェ
                     階段脇でスヤスヤ

  状況によりますが首都であるカトマンズやバクタプルの町中、あるいはお寺の中など不特定多数の人が行きかう場所では犬も人慣れしているので簡単に触らせてくれます。そうです、犬カフェ状態です。
  店長は犬が好きなので(猫も好きですがなかなか触らせてもらえません)ネパールに出張に行くたびにこの状態を楽しんでいます。


                                                      甘噛み子犬

犬カフェ
                    野犬の群れ(夜はちょっと怖い)

                                                    リラックスして授乳

  初めて会った人に母犬が子犬を自由に触らせてくれるなんて、なかなか無いです。

  でも負の側面もお忘れなく。ネパールでも最近は飼い犬にワクチン接種が行われていますが、野良犬には手が回り切らずに狂犬病で命を落とす人が年間100人ほど発生しています。
  そういう訳ですので、残念ながらネパールを訪れる皆さんには野良犬を触る事を積極的にはお勧めしません。あくまで自己責任で撫ぜまわしたりモフったりましょう。

シバ神の頭がある寺院

2024年12月1日


  当店が拠点を置くネパールの古都バクタプルの郊外に大きなお寺があります。大きなヒンドゥー寺院なんてネパールでは珍しくもありませんが、ここは特別です。なんとこの地にはシバ神の頭が埋まっているというのです。

  シバ神といってもご存じない方にはサッパリですよね。シバはヒンドゥー教の最高神の1柱で、破壊と再生の神です。人気のある神様で、ネパールを歩くとそこかしこでシバ神を目にします。
  神像だけではなく壁画やTシャツまでも売っています。日本ではなかなか仏陀のTシャツはお目にかかれないので人気のほどが分かります。下の写真は店長が愛用するシバ神のバンダナです。

シバ神の頭

  ちなみにシバ神の体の方はインドにあるこれまた大きなお寺にあるそうです。なのでインド人は頭を拝みにネパールへ、ネパール人は体を拝みにインドへそれぞれ多くの人が巡礼に出かけるのだそうです。

シバ神の頭

シバ神の頭 

  上の写真のように非常に立派な建物です。しかし夜が明ける前に訪れたせいなのか、コロナが収束してから余り経っていなかったせいなのか、参拝者はあまりおらず閑散としていました。
  敷地内には当然のように牛の像があります。隣に立った人の様子からその巨大さがわかると思います。これまた大きな三叉槍や蛇の像もあります。これらはすべてシバのシンボルともいえるものでシバ神と大抵セットになっています。
  天使には頭の上の輪っかと背中の羽根がセットであるように、鬼太郎には下駄とちゃんちゃんこと目玉親父がセットであるように、です。店長は詳しくないのですが牛や槍のそれぞれに謂れと意味があるそうです。


シバ神の頭

  敷地も広く建物も立派でシバ神の頭まで埋まっているお寺なのにもかかわらずガイドブックには載っている様子がありません。日本人は言うに及ばず、ここを訪れる外国人はインド人を除けば皆無に近いのかもしれません。
  やはり知名度の差でしょうか?仏陀やキリストの頭が埋まっていたらもう少し人が来ると思うんですけどねぇ....

  惜しい、非常に惜しいです。店長日記の読者の皆さんでバクタプルを訪れる機会がある方は是非ここまで足を延ばしてみてください。日本に帰ってからインド料理屋で『シバ神の頭のお寺に行ったことがある』と言えばインド人に自慢できますよ!

カトマンズの遊園地

2024年11月1日

  首都カトマンズの中心部のやや南側にカトマンズ・ファン・パークという遊園地があります。無料の公園とは違って有料なので、子供だけでホイホイ遊びに来れる所ではありません。子供にとってここは土曜日や祝祭日に大人に連れて行ってもらう一大レジャー施設なのです。ちなみにネパールでは日曜は普通に学校があります。
 
  遊園地の入り口はこんな感じです。おいおい版権は大丈夫かと言いたくなります。まあ多分ダメなのでしょう。しかしこれくらいはまだまだ序の口、中に入るとワンダーランドが広がっております。

ファンパーク

ファンパーク

  入り口の直後に入場券の販売所と入場ゲートがあります。入場料は大人は60円、子供と学生は30円です。ネパールと日本の物価差がザックリ5倍あるとしても、これはお安いと言えるでしょう。でもあくまで入場料であって、アトラクションの費用は別途かかるシステムです。

ファンパーク

  ゲートの上部にはデ●ズ●ーアニメのキャラ達が並んでお出迎えです。両端のマヨネーズみたいなものはこの遊園地のオリジナルキャラのようで、園内で散見されます。
  更にゲートを入って右手には、店長が今まで各国で見てきた中でも屈指の造形のピ●チ●ウが呆然と立ち尽くしていました。

ファンパーク

  奥に進むとありました、遊園地の定番のお化け屋敷です。字体がイイですね!上側の英語表記が「ハウス・オブ・ホラー」なのに対して下側の「BHOOT GHAR」とはネパール語でブート・ガル即ち「悪鬼の館」くらいの意味になります。

ファンパーク

  ネパール人が一体どんなものに恐怖を感じているのか非常に興味があるところなのですが、店長はビビリなので中に入れませんでした、すみません。でもその代わり別の怖いものを発見しました。
 正体不明ながら、これもこの遊園地のオリジナルキャラなのでしょうか。もし店長が子供の時に遭遇していたらきっと泣いていたに違いありません。それくらい不気味なのになぜかネパールの子供達には大人気です。



   どこかで見たような気がするキャラ達も園内にあふれています。超人ハ●ク、バ●ト●ン、ウ●ト●マ●さえもおります。でもやはり上記のオリジナルキャラが人気ナンバーワンでした。

ファンパーク

ファンパーク

ファンパーク

  別途料金が必要なアトラクションとしては、小規模なジェットコースターやブランコのように揺れる海賊船、そして観覧車なんかがもあります。特に観覧車は恐らく国内で最大のもので、外のバス通りからも見えるこの遊園地の看板的な存在と言えましょう。



   ただこの観覧車、回転スピードが異常に速い気がします。ふつうは観覧車とはごくゆっくりと回転し、高い所からの眺めを優雅に楽しむためのものであるはずです。ですがどう見てもスキー場のリフトくらいのスピードで回っています。乗り降りの時にどうしているのか不安です。
  不安と言えば、子供用のアトラクションの安全バーがロックされている様子がありません。店長の勘違いであるならばよいのですが…。

  色々とアレですが、子供たちは非常に楽しんでいる様子なのでまあいいのでしょう。ここは常設ですが、お祭りの時期だけ臨時で作られる小さな移動遊園地なんかもあります。またカトマンズ盆地の東端にはウォーターパークも作られました(時々閉園しますが)。

  ネパール内戦が終わって今月で丸18年になります。内戦中は遊園地なんてとても考えられませんでした。平和っていいですね。

鍛冶工房が引っ越しました

2024年10月1日

  2020年からのコロナ期間中にしばらく行けないでいるうちに、当店と契約する鍛冶工房が引っ越ししておりました。前回の引っ越しから8年ほど経ちます。
  不思議な事に引っ越し先は旧住所からほんの100mも離れていない場所で、なぜ引っ越したのかよくわかりません。コロナ期間中に当店向けのククリが出荷できずに仕事が減って、規模を縮小したのかもしれません。
  とりあえず引っ越し祝いに日本のウイスキーを持っていきました。

  お店はまだ仮営業ですがこんな感じ。やはり前よりも若干手狭に感じます。

お引越し

  金床は以前から使っているものです。上端がこんな具合につぶれるまでには5年や10年ではききません。

お引越し

お引越し

  ちょっと奥にはバフ掛け用のモーターの横に、当店に納める予定の白兵戦用大型ククリが仕上げを待っている状態でした。

お引越し

  その下にはこれまた作りかけのカルダとチャクマが無造作に転がっています。

お引越し

お引越し

  日本人の感覚では工房の中はあまりにも雑然としています。ですがその中からあの芸術品とも言える美しいククリが生み出されるなんて、何か魔法のような力を感じます。

  工房長のプルナさんにはパンデミックに負けずに今後も新天地(というほど移動していませんが)で良いククリを作り続けていって欲しいものです。ひいてはそれが当店の繁栄にもつながります。
  コロナ期間中は、ここのようにネパール軍や警察にククリを卸している工房はまだよかった方で、観光客向けのククリを主力にしている工房はまるっきり商売にならずに、農作業用の鋤や鎌を作ってなんとか食いつないでいたそうです。魔法のような腕をもってしてもウイルス相手では如何ともしがたいものがあります。
  観光はヒマラヤの小国であるネパールにとって一大産業ではありますが、パンデミックや世界情勢に大きく左右される商売は怖いですね。


飛び地のヒンドゥー教

2024年9月1日

  店長日記では何度かヒンドゥー教に関する話題を取り上げています。ヒンドゥー教の世界観が非常に魅力的で思わず話したくなることが主な理由ですが、ネパールではヒンドゥー教が生活の隅々にまで浸透しているのでそれを避けていては話ができないことも大きな理由です。という訳で今回もヒンドゥー教のお話です。
 
  世界にはいろいろな宗教があります。2023年の統計によると世界人口に占める信者人口の割合は、キリスト教が約31%、イスラム教が約26%、そしてインド・ネパールなどの南アジアの主要な宗教であるヒンドゥー教は15%と第3位の人口を誇ります。ちなみに4位は仏教で6%です。
  ここで、おやっ?と思われなかったでしょうか? 教科書にも載っている世界三大宗教と言えばキリスト教・イスラム教・仏教です。なぜ仏教徒の2倍以上の信者がいるヒンドゥー教がはずされているのでしょうか?

  ウィキペディアで世界三大宗教を検索すると『地理的、民族的な壁を越えて世界中に広まり社会や文化に大きな影響を与えている宗教』と書いてあります。どうやらヒンドゥー教は12億人の信者を擁するにもかかわらずこの定義に当てはまらないようなのです。
  最初に書いた通り、ヒンドゥー教は南アジア圏の社会や文化に大きな影響を与えていますが、地理的民族的な壁を越えて世界に広まってはいないと見なされている事がその理由です。

  実際、キリスト教とイスラム教はどこの国に行っても多少の差はあれ、まんべんなく教会やモスクを目にすることができます。それに比べると仏教はアジアに偏りがちですが、それでも非常に多くの国で信仰されています。
  一方南アジア以外でヒンドゥー教の寺院を目にすることはめったにありません。特にヨーロッパや南北アメリカ大陸そしてアフリカ大陸では皆無と言っていいかもしれません。これでは地域民族限定宗教と言われても仕方ありません。

  しかしながらヒンドゥー教が地理的民族的な壁を越えて広がった例も僅かにあります。カンボジアやインドネシアやモーリシャス共和国がそうです。
  ただしカンボジアでヒンドゥー教が栄えたのは昔の話です。またインドネシアのヒンドゥー教徒はバリ島に集中しており、国全体としては人口の2%を切っています。島国であるモーリシャスでは人口の約50%がヒンドゥー教徒ですが、それもそのはず住民の大半がインド系の移民で構成されているため、インド人ごとヒンドゥー教が引っ越してきた感があり、地理はともかく民族を超えているかと言われると苦しいです。

  うーむ、やはり世界宗教の仲間入りは難しいですね。それでも店長は南アジア以外の国で初となるヒンドゥー寺院を見るために、上記3か国の中で日本から1番近いカンボジアに行ってみることにしました。
  同じキリスト教でも国によって教会の様式や信仰の仕方に違いがあるように、きっとヒンドゥー教寺院も南アジアの物とは違っているはずで、イヤというほど見てきているネパールの寺院との違いを楽しめるはずだと思ったのです。

  さてやって来ました、カンボジア中部の都市シェムリアップ。その北部に広がるのはかの有名なアンコールワットです。
  現在のカンボジアは仏教国ですが、日本でいうところの鎌倉時代にはヒンドゥー教国であって、アンコール寺院群もその頃にヒンドゥー教の神々のための宮殿として建てられたのだそうです。

  アンコールワットは規模も壮大です。南北1.3km、東西1.5kmの単独のお寺なんて初めて見ました。面積は東京ディズニーランドの4倍弱あります。日光東照宮も比叡山延暦寺もかないません。
 下の写真がアンコールワットです。
 
ヒンドゥー

ヒンドゥー

ヒンドゥー

  一見してネパールのヒンドゥー寺院との差は明らかです。ネパールでは寺院は赤い煉瓦と木で作られているのものが典型的ですが、アンコールワットは主に石材(と一部煉瓦)で作られているようです。下のネパールの寺院と見比べてみてください。

ヒンドゥー

ヒンドゥー

ヒンドゥー

  アンコールワットもかっこいいですが、普段見慣れているせいなのかネパール寺院の方が店長的には渋くて好みです。
  こんなにも壮大な寺院を築き、かつて隆盛を誇ったヒンドゥー教も今や信者の数はカンボジアの全人口の1%にも満たないマイナー宗教となってしまいました。世界宗教への道はかくも厳しいのです。

  しかしそれもいいではありませんか。世界宗教から仲間外れにされても一人我が道を行けば良いのです。ネパール人はそんな些末事を気にする人たちではありません。
  地元の住民が早起きをして薄暗いうちからヒンドゥー寺院の掃除を欠かさず、同じくらい早くから参拝者が絶えないのですから、世界宗教かどうかという事よりもこっちの方がより重要ではないでしょうか。

バネパ(後編)

2024年8月1日


  先月の店長日記ではバネパという街を訪れましたが、今回はその後編になります。
  山に向かって軽い坂を上ること30分、お寺の近くまで来ました。しかしお寺らしい建物が見当たらないのです。スマホ片手に地図を見ながら歩いているので間違いないはずです。近所の人に聞いてもお寺はあると言っています。大きなお寺なら100m先からでもわかるはずなのですが…。
  まさかこれなのか?

バネパ

  そこには何やら4畳半くらいの小さな土台のようなものと、何かを取り外した穴のようなものが残されておりました。
  これは...、お、お寺の跡? 多分グーグルマップが作られたときはちゃんとお寺だったのでしょう。 といいますか、ここまで来る人は珍しいとはいえ、こんな小さなお寺が大きく表示されているマップって問題なのではないでしょうか?

  目的を達成(?)したので遅めの昼ご飯を食べて帰ることにしました。せっかくなのでネワール様式の旧市街を散策するべく来た時とは別の道を通って迷路のような煉瓦の道を歩きました。こういうぶらぶら歩きが店長は大好きです。

バネパ

  上の写真はお日様に背を向けて日向ぼっこしながらおしゃべりと編み物をしているおばちゃん達です。ネパールは緯度が低いため日差しは強く、1月でもこの辺りは最高気温が15、6度まで上がるので風が通らない入り組んだ路地では日当たりのよい場所はポカポカと暖かく、絶好の日向ぼっこスポットです。

バネパ

  路地にはこんなワンダーランドもあります。間口わずか3mのお店にクリスマスツリーの飾りつけかと思うくらい各種スナック類がぶら下がっています。中央のやや傾いた棚の上にはばら売りのキャンディーやグミやガムの大瓶が並び、奥の棚には若干高級そうなパッケージのクッキー類がぎっしり陳列されています。
  子供たちが夢見る最強のお店といった所でしょうか。そこには最近の日本のお店では体験できない種類のワクワク感があります。

  店長が歩き回りながら探していたのは良さげなモモ(桃じゃないです、シュウマイみたいなネパール料理です)のお店です。良さげな店とは即ちモモを蒸す大鍋から常に蒸気が上がっていてお客がたくさん入っている店です。
  見つけました。店の中だけではなく外にもテイクアウトのお客さんが沢山いて、なかなかの人気店のようです。このお店にはメニューなどというものはなく、料理を指差して口頭で注文するスタイルです。注文したのは野菜のモモとミルクティーと乳を煮詰めて作った甘いお菓子です。

バネパ

バネパ

  モモはソースを上からかける店が多いですが、この店では小皿に入ったディップに付けて食べます。このディップが絶品でした。トマトベースにマッシュした豆を加えたとおぼしき味で、他の店でよくあるただのカレー風味のソースではありません。次回また訪れる時のために地図にしっかりマークしておきました。

バネパ

  まあここまで来られる方も少ないとは思いますが、念のため場所は上の写真の青い矢印マークです。バネパまで来てしまえば地図左下のバスパークから徒歩4分、幹線道路でバスを降りたなら徒歩わずか2分といった立地です。
  カトマンズから来られる方はまずはローカルバスの車掌の口上を聞き取るところからチャレンジしてみてください。

バネパ(前編)

2024年7月1日

 
  当店のネパール側事務所がある古都バクタプルから東へバスで1時間の距離にバネパという町があります。ここもバクタプル同様にネパール中部に点在するネワール族の街です。
  ネパールに50以上あるという少数民族のうちでもネワール族は人口が特に多いというほどでもない(上から6番目)のですがかなり栄えており、商売上手なためか交易路沿いに拠点を築き、飛び地のような街を作ってきたのです。
  そこがネワールの街かどうかは見ればすぐに分かります。なぜならそこにはネワール様式と呼ばれる特徴ある木と煉瓦造りの街並みが広がっているからです。
こんな感じの建物です。

バネパ
                      ネワール様式の家並

  バネパは近くにあるドゥリケルやパナウティといったネワールの街とは違い、これといった見どころがないため観光客も素通りする街です。なので店長もいままで行ったことがありませんでした。
  しかしそう遠くない上に幹線道路沿いにあって移動しやすいので、今回初めて行ってみました。目的は特にありませんが、ひとまずグーグルマップに表示されたお寺に行ってみようと思いました。
  結構縮小して見てもマップに表示されているところからすると、大きくて立派なお寺に違いありません。

  さてまずはバクタプルから東に向かうバスに乗ればいいのです。ただし少々慣れが必要です。一部の観光バスを除いてネパールのローカルバスはみんなそうなんですが、バスがバス停に止まったら車掌が素早く降りてきて行き先を叫ぶのです。 
  行き先は一つではないので主要な行き先を続けて連呼することになります。日本人には「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ・・・」としか聞こえない長い口上を聞き取って、自分の目的地(またはその近く)が含まれていればそのバスに乗ってよいことが分かります。
  大きなバスパークでもなければバスはひっきりなしにやって来てはすぐに走り去るので、聞き取りに許された時間は短ければ2,30秒です。なかなかに高いハードルなのです。店長も聞き取れるようになるまでずいぶんかかりました。

  下の動画の車掌(黄色い服の兄ちゃん)が口にしている行き先は「ペプシコーラ、プラノティミ、サノティミ、サラガリ、バクタプル」なのですが、聞き取れますでしょうか?ちなみにペプシコーラも立派な地名です。


バネパ
                                             乗ってしまえばこんな感じ

  バネパに着いても車掌が「バネパに着きました」と教えてくれるわけではありません。車掌はあくまでそこから先の行き先を叫ぶだけなのでスマホの地図でしっかり現在地を確認して降りましょう。

  知らない街に着いたらまずトイレの位置を確認します。これ重要。日本ならちょっとしたお店や公園には必ずトイレが付いているのですが、ネパールではそうはいきません。田舎だとなおさらです。バネパのような大きな街ならバスパークの付近やショッピングモール(あればですが)が狙い目です。
  トイレの位置を確認したら街をぶらぶらしながらお寺に向かいます。町を歩いての第一印象は『まるで20~30年前のバクタプルのようだ』です。時期が悪かったせいなのかもしれませんが観光地化されていないので自分以外の外国人は一人も見かけませんでした。お店も観光客に媚びることなく、英語のメニューなどありはしません。

  極めつけは野犬の多さです。多いだけではなくフレンドリーではありません。こんな所までも昔のバクタプルそっくりです。野犬にとっては外国人など自分のテリトリーに不法侵入して来たただのよそ者でしかありません。久しぶりに吠えたてられました。
  こんな時は石を拾うフリだけでもすれば犬は警戒して距離を取ります。小さいころから住人に吠えては石をぶつけられて育ってきたので自然にそうなったのでしょう。棒を手に持っても同じ効果があります。犬がビビっている間にテリトリー外へ逃げましょう。ただし走ってはいけません。走れば自分より弱い相手とみて追いかけてきます。あくまでゆったり歩いて離れます。

  こんな状態で地元の人は困っていないのでしょうか?どうやら困っているようです。これも久しぶりに見ました。下の写真の人が何なのかお分かりでしょうか?

バネパ

バネパ
            一分の隙も無い野犬狩りのコスチューム

 これは野犬狩りです。長袖に長ズボン、靴は足首まである丈夫な革靴、そして何と言っても大きな網を持っているのですぐに分かります。後ろには毒物を抱えた助手とギャラリーの子供たちが控えています。
 広い場所なら人間がどう頑張っても犬を捕まえるのは至難の業でしょう。走る速さが違いすぎるからです。ですが狭くて入り組んだネワールの町並みなら頭を使った連係プレイで挟み撃ちにしたり行き止まりに追い込んだりできる人間の方に分があります。
 捕まえたら保健所まで連れて行くなどという手間はかけません。その場で毒を打ち込みます。殺すところはあまり子供に見せて欲しくないのですが…。

 あまり近づいて巻き添えを食いたくないので横目で見ながら通り過ぎました。店長の目的はお寺なのです。

後編に続く....

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