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バネ鋼

失われつつある壁画

2024年1月1日

  ヒマラヤの村々を歩いていると村の入り口に道をまたいで作られた門というか小屋のようなものが建っていることがあります。これはカンニと言う塔門で、以前の店長日記でも触れましたが悪い精霊や悪霊が村に侵入することを防ぐためのものです。
  下の写真はピサンのカンニとその内部です。

壁画

壁画

壁画

  道をまたいでいるので中に入ると短いトンネルのようです。上を見上げると天井と四方の壁に壁画が描かれています。描かれているのは曼荼羅だったり護法尊や仏だったりで、さすがにこんな神聖な空間には悪いものは入ってくることはできないでしょう。

  こうした壁画はカンニだけではなく村内のお寺の壁にも描かれています。下の写真はジャルコット村のお寺の壁画です。

壁画

壁画

  一目でお分かりいただけるように、あちこちがかなり傷んでいます。ヒマラヤトレッキングが趣味の店長は20数年前から各地の村々でこのような壁画を目にしているのですが、訪れるたびに損傷が激しくなっていくように思われるのです。
  特に2015年のネパール大地震でそれが加速しました。ひび割れどころかカンニごと倒壊したものもあります。にもかかわらず、国連から世界最貧国の一つに指定されているネパールですから貴重な文化財であっても修復するお金がありません。人命に直結する家屋や生活インフラが最優先だからです。

  「壁画」であるということが保存を難しくしているのでしょう。仏像や装飾品なら移設したり博物館に展示するのも簡単です。しかし描かれた絵を傷つけずに数トンはある壁ごと運搬するのは困難ですし、それがロクに道路もなく重機も入れないヒマラヤの山奥にあるとなると困難を通り越して不可能の域に近づきます。
  ヘリで空輸するにしても空気が薄いのでホバリングが難しくなって重量物は運べませんし、そもそもそんなお金がありません。手詰まりなのです。

  またネパールは政府が文化財におかけをかけるということをあまりしない国のように思えます。というのは、地震があった3年後にネパールを訪れてみるとインフラや公共施設はかなり復旧しているのに国立博物館はまだまだ閉鎖中の展示館があったからです。
  首都にある国内最大の国立博物館でもそういう扱いなのですから、たとえ地震がなかったとしてもヒマラヤ山中の寂れた村の壁画などに手が回るはずありません。多分この種の壁画の多くはあと数十年のうちに徐々に失われていくのでしょう。

  ネパールで十数年前に王政が崩壊して共和制となった事を店長日記で明治維新に例えたことがありました。明治維新後には日本でも廃仏毀釈運動が起きて多くの仏像や文化財が溶かされて再利用されたり、廃寺となって放置されるままに朽ちていきました。
  日本ではもうそれは取り返しがつきませんが、ネパールではまだ取り返せそうなのです。ビル・ゲイツとかロックフェラーとかイーロン・マスクとか誰でもいいから何とかしてくれないかと妄想してしまう店長なのでした。

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