インドラ神の乗り物のお祭り
2020年8月1日
インドラジャットラという名前の通り、お祭りの主役はヒンドゥーの神様であるインドラ神(下の写真)です。そのはずなのですが、ちょっと情けないエピソードに基づいたお祭りであるせいかあまりインドラが前面に出て来ることはありません。
その情けないエピソードとはこういうものです。
ある日インドラ神が母親にパリジャートという花をプレゼントしようと考えました。しかしたまたま天界にはパリジャートが咲いていませんでした。そこで彼は人間の姿に扮して地上に降り、庭に咲いていたパリジャートを摘もうとしますが、そこを人間に見つかってしまいます。
お金を払うとかなんとかすればいいものを、人間界のルールに疎いインドラはうまい言い訳もできずに泥棒として人間に捕まってしまいました。神様なんだから何とでも出来そうなものですが、自分に非があるためか彼はおとなしく柱に縛られてしまいます。
一方母親は花を摘みに行ったっきり帰ってこない息子を心配して地上を見下ろしてみれば、なんと息子が人間に捕まっているではありませんか!さっそく助けに行きました。
ここで気が短い神様なら人間達をなぎ倒して息子を奪還するのでしょう。実際、戦いの女神ドゥルガーや死の女神カーリーなら身内にこんなことをされたらカトマンズごと滅ぼしかねません。しかしこの母親はなかなかの人格者で穏便に解決を図ろうとします。人間たちに”カトマンズに五穀を実らせる雨を降らす”という条件を提示して息子を解放してもらったのです。
一方カトマンズのちょっと東に位置する古都バクタプルでも同じくインドラジャットラが行われます。こちらはカトマンズのものとは若干趣が違います。祭りのメインの一つがインドラ本人ではなくその乗り物なのです。
ヒンドゥーの神様にはヴァーハナと言われるそれぞれ決まった乗り物があるケースがあります。バットマンがバットモービルに乗っているように、仮面ライダーがバイクに乗っているように、王子様が白馬に乗っているように、これはもう一つの様式美です。
中でも最も有名なものがシバ神の乗り物である牛でしょう。インド人やネパール人の多くが牛を神聖視するのはこのためです。当然インドのマックのハンバーガーは中身がチキンか羊の肉で、牛肉100%などもってのほかです。
そのほかにも上記のドゥルガー女神は虎やライオンに乗っていますし、日本の弁天様に相当する学問や芸術の女神サラスワティーは白いガチョウに乗っています。また象の頭を持った日本でもお馴染みの商売の神様ガネーシャはその巨体にもかかわらずネズミに乗っています。 ではインドラは何に乗っているでしょうか?戦いの神であり雷神でもあるインドラが乗っているのはアイラーヴァタという白い象です。上の写真をもう一度よくご覧ください。インドラの足元にちゃんと象が座っています。
ただの象ではありません、アイラーヴァタは4本の牙と七つの鼻を持つ象の王なのです。霧を編んで雲を作り出す能力を持ち、インドラが雷とともに雨を降らせる時にはその鼻でくみ上げた水を使うといいます。
お祭りではこの象がバクタプルの旧王旧前広場を縦横無尽に走り回るのです。
お祭り当日には広場にぎっしりと人が集まって、アイラーヴァタが登場するのを待ち受けます。
人々の視線の先にいるのはおおむね本物の象と同じくらいの大きさのアイラーヴァタのお神輿です。ちゃんと象の形をしています。アイラーヴァタはお神輿にあるまじきスピードで走り回り、人々は熱狂します。
ネパールにお祭りは数あれど、神様本人ではなくその乗り物(ヴァーハナ)がここまで大きく取り上げられるお祭りを店長は他に知りません。
普通ヴァーハナは神様のお供的な存在で、神様と一緒に語られることはあっても単独で活躍することは少ないからです。
心優しいバクタプルの住民達でした。
店長から一言
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