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バネ鋼

ネパールの銅製品

2020年5月1日
  ネパールを歩くとよく銅製品の金物屋を目にする気がします。金物屋は鉄製品の金物屋と銅製品の金物屋とに明確に分かれているのですが何故か銅製品の金物屋ばかりが視界に入ります。商店の中で本当に銅の金物屋の割合が高いのか、それともキラキラと輝く金属光沢が目を引くのせいなのかは分かりませんがとにかく目立ちます。

  なかでも特に目立つ大物はガーグリと呼ばれる甕状の水入れとタウロという大鍋でしょう。これらはもうお店の看板のようなものです。下の写真をご覧ください。

銅製品

銅製品

  上の写真で店の壁面を飾っているのが大鍋です。また下の写真でスマホをいじる兄ちゃんの上にぶら下がっているのも大鍋でその中にあるのが水入れです。
  店長ならこんな所には怖くて座っていられません。なぜならこの直径50cm超級の大鍋の重さは10kg近くあり、水入れも4kgは下らないからです。頭部に直撃すれば死なないまでも大怪我は間違いありません。鍋の取っ手がひっかけてある鉄のレールが程良く錆びているのも不安感をあおります。

  素材はどちらも銅または真鍮(銅と亜鉛の合金)か青銅で赤っぽいのが銅、金色のものが真鍮か青銅です。いずれもかなり厚みがあり、大鍋は日本の同サイズのアルミの大鍋の優に10倍の重さはあるでしょう。
  ネパールにだって軽いアルミ鍋はありますし、水道があれば大きな水入れも必要ないはずです。とすると、これは実用品なのでしょうか?そしてこんなによく見かけるほど需要があるのでしょうか? こんな疑問が当然思い浮かぶはずです。

  まずは実用品なのかという疑問にお答えしますと、水道が整備されていない地方では水入れは十分実用品です。むしろネパールでは水道が整備されている地方の方が限られています。カトマンズのような首都でもちょっと郊外に出ると普通に井戸か共同の水道を使っています。
   カトマンズの隣町のバクタプルにある当店のスタッフの実家も庭に井戸があって洗濯はその水を使います。
  山の村に行くとそれが更に顕著で、水は結構な距離を下って(村は大抵高い所にあるので)川か共同の水場から汲んできます。生活用水は各家庭の蛇口から出てくるものではなく家の中の水入れに貯めて使うものなのです。下の写真が典型的な共同の水場です。

銅製品

  ちなみに銅製なのにも意味があります。銅は加工がしやすいという点も大きいですが水入れとして使うのならば中の水が腐らないようにすることは非常に重要です。銅イオンには殺菌作用があり、銅や銅合金製の器からは微量の銅イオンが水に溶け出しているため水が長持ちするのです。

  次に需要ですが、意外にもこれがあるのです。上記の用途としてだけなら陶器やプラスチックの容器だってかまわないはずです。まあ殺菌力は落ちますが銅製より軽くて持ち運びしやすいという利点があります。価格だってプラスチックの方が桁違いに安いはずです。にもかかわらず一定の需要があるのです。それは贈答品や儀式(特に結婚式)用として欠かせないためです。
  日本でも和服は特別な職業の方を除いて既に実用品としての意味合いは薄いにもかかわらず一定の需要があります。なぜなら和服は結婚式や夏祭りといった伝統行事やパーティーなど、ここ一番の際に威力を発揮するからです。
  同様に銅製の大鍋や水入れもネパールの伝統行事で威力を発揮します。
  ネパールでは結婚式で花嫁が足を洗う儀式があります。ヒンドゥーのお坊さんが厳かにサンスクリットの呪文を唱える中、着飾った花嫁の足をプラスチック製の洗面器で洗えるでしょうか? そうです、ここで大鍋が登場します。料理の道具でもありますが儀式用品でもあるのです。

  大鍋や水入れは親が買い与える場合もありますが親族からの贈答品としても人気の品です。なぜならこれは嫁の財産になるからです。
  そもそも銅は地金自体が高価な金属である上に職人が手間をかけて作り上げた製品は非常に高価なものです。銅製品もピンキリではありますが、本当に良い大鍋は現地のサラリーマンの月給が吹っ飛ぶほどの値段になります。

  銅の水入れは銅板から職人の手により打ち出される鍛造品です。最高級のものは2枚の銅板、というより分厚い銅のホットケーキ状の塊を槌で打ち続けて上半分と下半分の形にして、最後に上下を鍛接したものになります。
  銅合金は熱間鍛造がしやすいとはいえこうした鍛接箇所が1か所しかないものは腕の良い一部の職人しか作ることができません。
  一方安物は3~5枚の薄い銅板を打って鍛接で継ぎ合わせたもので、薄いのであまり槌で打たなくてもよく曲がるため槌目が粗く、継ぎ合わせた鍛接痕が何か所もあることが見た目で明らかなうえに手に持つと軽いのですぐ違いに気が付きます。
  より分厚く重く鍛造の槌目が細く鍛接箇所が少ないものが高級品なのです。

銅製品

  上の写真をご覧ください。二つ並んだ銅の水入れは日本人には同じに見えます、しかしネパール人が見れば右側が高級品であることが明らかです。
  左側は水平な鍛接痕が3か所あるのに対して右側はわずか1か所です。表面の質感も左が粗く右は滑らかです。また写真ではわかりづらいですが右側は首から肩にかけて装飾が施されています。
  これらのことから、ほぼ同じ大きさなのにもかかわらず総合的に値段は右側が左側の3倍以上になるのです。

  こうした銅製品は頑丈であるため何代にも渡って使い続けられることがあります。しかしいつかは穴が空き、ひび割れ、水が漏れるようになります。
  なんでも修理して使うのがネパール流ですから当然ロウ付けや鋳掛で修理されますがどうにもならないほどになった場合でも、もちろん捨てたりはしません。リサイクルに出します。これはお寺や伝統建築の銅製の飾りなどでも同じです。
  銅合金は地金の値段がそもそも高いので結構よい値段で売れるのです。これは高級品低級品関係なく量り売りで1kgあたり700円くらいでしょうか。
  安く思えるかもしれませんがネパールでは700円あれば3人で外でお昼御飯が食べられる事を考えると実質日本での3,000円くらいの価値があります。10kgの大鍋なら3万円になる感覚です。

  こうやって家々やお寺などから引き取られた銅古物は銅細工職人がまとめて買い取って溶かされてまた新しい水入れや鍋に生まれ変わるのです。
  下の写真にある店長が3年前にカトマンズで買って台所で使っている鍋もその素材はヒマラヤの山奥の寺院の百年前の窓飾りかもしれませんし二百年前の神像かもしれません。
  そう思うと鍋から何やらオーラが出ているような、いないような...。

銅製品 
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