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バネ鋼

ロマンチック・レンガ街道

2020年2月1日
今回は首都近郊の町の旧市街地のお話です。

  店長のネパールでの拠点は、首都カトマンズではなくその近郊のバクタプルという町です。理由は当店の現地スタッフの家がバクタプルにあるという事と“よい鍛冶屋がバクタプルで見つかったから”という単純なものです。
  当店を開設するにあたって、カトマンズの鍛冶工房にも試作品を作らせて腕を試したのですがどうも作りが粗く(あくまで日本人の基準での粗さです、ネパール人的には問題ない品質です)現在契約しているバクタプルの工房がやはり最高でした。

  ちなみに後から分かったのですが、この工房探しの際に次点に挙がった工房が何とアメリカの有名なククリショップであるヒマラヤン・インポートと契約のある工房でした、さすがですね。こちらの工房はネパール内戦(1996年~2006年)中にバクタプルから安全な東部に引っ越してしまったので、現在バクタプルでジャパニーズ・クォリティの刃物を打てるのは当店と契約するこの1軒だけだと思っています。
  ですが、ブレードやグリップといった主要部分はバクタプルの鍛冶工房で作っていても、それ以外のナイフの装飾(象嵌細工や水牛革)などはカトマンズの各種工房に作らせているので、店長はカトマンズとバクタプルの間を行き来する機会が多いのです。近郊とはいえ歩ける距離ではないため、スタッフの車に相乗りできなかったときは公共交通機関を使います。

  交通機関としては昔は電動のトローリーバスが走っていたのですがいつのまにかなくなってしまいました。タクシーはバスに比べて劇的に料金が高いくせに劇的に早く到着するわけでもないのでコスパが悪すぎます。よって交通機関はバス一択となります。

  バクタプルとカトマンズの間を結ぶバス路線は大きく分けて2つのルートがあります。新道ルートと旧道ルートです。新道ルートは10年ほど前に日本の協力で全面開通したばかりの幹線道路を行くルートで、よく整備されて道幅も広く街灯も途切れなく立っていて平坦な良い道路です。
  この道ができる前も同じ場所にちゃんと道路はありました。ですが整備状態が悪くて渋滞もひどく、道端の白く塗った大木がガードレール替わりという有様でした。それが今では上記の通りで、さすがは日本の協力でできた道路ですね。時間帯にもよりますがこのルートを行けばカトマンズ中心部からバクタプルの新市街まで50分といったところです。

  一方旧道ルートは上記のルートができるはるか昔に二つの都市を結んでいたルートだと思われます。なぜならこの道はカトマンズ周辺の中小の町の旧市街を縫うように通ってバクタプルの旧市街に到着するルートだからです。
  つまり今の旧市街は昔々町が繁栄していた当時の中心街であったはずで、カトマンズ盆地にネワール族が都市を作り、カトマンズ、パタン、そしてバクタプルその他中小の周辺都市が栄えたのが16世紀前後ですので、旧道はその当時の主要道路であったことが容易に想像できるからです。

  こちらのルートだとカトマンズ中心部からバクタプルまで1時間以上かかります。丘陵地を通るために若干のアップダウンがあり、道幅も狭くてあまり整備されていません。またどういう訳か途中の道端でバスが止まったまま20分ほど動かない事もあり、そんな時はさらに時間がかかります。ですが、それでも店長はこっちのルートが好きなのです。

  味気ないコンクリート製の新市街や郊外型の大型店舗を見ながら走るより、味わい深いレンガ造りのネワール様式で建てられた旧市街や昔ながらの市場を見ながら走る方がいいに決まっています。なかでもカトマンズとバクタプルのちょうど中間地点にあるティミという町は伝統的な家屋がよく残っており古都の趣があります。
  ティミは丘の斜面に沿って作られた町で斜面の下側が新道に面した新市街、上側が旧道に面した旧市街という立地です。この高所に市街があるという構造はネワール族の町の多くに共通した特徴で、バクタプルやキルティプル、タンコットなどの近郊の町も同様の立地です。

  店長の勝手な想像ですが、この立地の理由は町の防衛にあったのではないかと思います。ネパールがまだカトマンズ盆地の小国の一つだった頃、周辺の数十の小国が虎視眈々とこの地を狙っていたのです(この当時の戦闘の様子はカトマンズの西側にある軍事博物館で見ることができるのでネパール史に興味がある方は必見です)。
  ですから街を作るなら平地よりも攻めるに易く守るに堅い高所を選ぶのは当然の理なのです。

  木や竹や紙で作られた日本家屋と違ってレンガ造りのネワール建築は上記の戦火にも耐えて、ティミの旧市街を非常に魅力的なものにしています。下の写真をご覧ください。

ティミ

  これは旧道から少し丘を下ったところにある寺院です。小さなお堂ですが周りにはいつも地元の人たちがたむろして良い雰囲気です。境内がないただのお堂ですので他の大きな寺院のように「靴を脱げ」などと言われる事も無く中を覗くことができます。

ティミ

ティミ

  中にはイカした壁画やおそらくバイラブと思われる神様が鎮座しておりました。ちんまりして可愛い感じもしますが、バイラブはヒンドゥーの破壊神ですのでくれぐれも不敬の無いようにご注意ください。
  隣に建っているレンガのネワール建築もなかなか良い感じです。旧市街は建物はもちろん、地面まで全面レンガ敷きですので新市街のアスファルト路面とは味わいが違います。

ティミ

ティミ

  よく見ると道端に何やら同じ形の物がたくさん置いてあります、何でしょう? 下の写真のような妙な機械もあります。
  道端に並べられていたのは乾燥中の焼き物で、妙な機械は粘土を練る機械です。ティミは焼き物の町としても有名なのです。

ティミ 
ティミ

ティミ

  奇妙なことに街中でこれほど大規模に焼き物が作られている割には焼き物を販売するお店があまり見当たりません。これは港町に魚屋がないのと同じ理由なのかもしれません。
  港町に魚屋がないのは地元の住人にとっては「魚は買うものではなくその辺にいくらでも転がっているものであり、知り合いから入手するもの」であるためですが、ティミの住民にとって焼き物は「その辺で幾らでも分けてもらえるもの」なのでしょう。

  同じく焼き物の町でもバクタプルのようにそこそこ観光客が来れば事情が違います。ちゃんと焼き物のお店が並んでいます。
  しかしティミは観光客を見かけることもほとんどないような町なので致し方ないところです。シーズンにもよりますが2時間歩いて一人の外国人も発見できずじまいということも珍しくありません。もっとも店長にはネパール人とインド人の区別がつかないので案外インド人は訪れているのかもしれません。
  まあ、カトマンズのように騒がしくもなく埃っぽくもなく、観光地化されていない本当の伝統的な街並みを堪能できるので、お好きな方にはそこがティミの魅力だともいえます。店長はお好きな方に含まれているため時々用もないのにティミで途中下車してしまうのです。

  2020年はネパール観光年“VISIT NEPAL 2020”と銘打ってネパール政府が観光に力を入れていますので、旧道の観光地化されていない伝統的な街並みを「ロマンチック・レンガ街道」などと名付けて売り出す作戦も大いにアリかと思われます。
  2020年にネパール旅行される方は「ロマンチック・レンガ街道」の御訪問を是非ご検討ください。
 

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