藪こぎのお供に、長尺の山岳ククリ “メラムチ”
切っ先からグリップの端まで385mmもある長尺のククリです。
全体としてはネパール山岳部でよく見られる細身のタイプの大型ククリをもとにしたデザインになっており、ブッシュを切り開くのはもちろん薪割りから獲物の解体までこなします。このククリはとにかく刃渡りが長いため棒を振る感覚で峰を使って小枝をしのいだり草を払ったりと山歩きには非常に便利です。
しかし長ければいいというものでもなく、長すぎるとかえって邪魔になります。重さも重要で、藪払いを続けても腕が疲れない重さでなければ結局使われずにお蔵入りしてしまいます。
更にそれなりの重さのものを長時間振り回す場合、いずれ握力だけではグリップを保持しきれなくなってきます。すると当然ナイフはすっぽ抜けて飛んでいくことになり、人に当たれば大怪我をさせかねません。
飛んでいかないようにする方法は幾つかありますが、代表的なものにグリップに固定した紐を輪にして手首に通す方法があります。スキーのストックを思い浮かべてください。剣鉈にこのようなタイプがたまにあります。これはかなり有効ですがナイフを持ち替える度にいちいち手首に通すのが面倒です。
別の方法にナックルガードがあります。グリップ部分に手首から先を覆うナックルガードがあれば小指が引っかかるのですっぽ抜けを防止できます。西洋のサーベルのグリップを思い浮かべてください。これもいいのですが刃渡り30cmそこそこのナイフには大げさすぎますし、重くなるため握力以前に腕が疲れてきます。
さて、ではメラムチではどうしているのか?メラムチが採用する解決策はククリの伝統的なデザインそのものです。そもそもククリは全力で振り下ろすことで肉から骨までブチ割るためのナイフです。そのため全力で振った時の遠心力に耐えるべくグリップの形状は端の部分がラッパ型に広がって手から抜け難くなっているのが上の写真からお分かりいただけると思います。奇しくも藪漕ぎにピッタリな構造ではありませんか。実際グリップを握った手をかなり緩めて振っても手のひらの端の部分が引っかかって簡単にはすっぽ抜けません。
“メラムチ”は邪魔にならずに使いやすい長さとして刃長(切っ先からチョウと呼ばれるブレードの窪んだ部分まで)を225mmに設定し、軽量化のためブレード幅をやや狭く、刃厚を薄くしております。
具体的には当店の白兵戦用大型ククリより刃長は25mm長く、刃厚は1mm少なく、ブレードの最大幅は10mm小さくなっております。結果として白兵戦用大型ククリより長いにもかかわらず重量はナイフ単体で16%軽くなりました。
全長:鞘に入った状態で410mm、切っ先からグリップ端まで385mm
刃長(切っ先からチョウと呼ばれるブレードの窪んだ部分まで):225mm
刃厚:最大約8mm、グリップ長(木製部分):約114mm
重量:鞘あり約470g、鞘なし約370g
グリップの材質:チーク
ブレードの厚みがやや薄いとはいえ、通常のユーティリティナイフとは比べ物になりません。またグリップには水に強いチーク材を使っています。
ネパールのブッシュについてもう少し詳しく説明しますと、ネパールには大きく分けて2種類のブッシュがあります。一つは南部の熱帯~亜熱帯の平地部で、いわゆるジャングルのイメージそのままのブッシュです。もう一つはヒマラヤ山脈に代表される山岳部のブッシュで、標高が高めの日本の森に似ています。
同じククリでもそれぞれの土地の風土に合った形状があります。このメラムチは山岳系のククリなので熱帯に生えるマメ科の硬いつる植物を切り開くことには向きませんが、照葉樹林から針葉樹林帯にかけての藪を切り開くには最適です。ククリとしてはやや薄刃とはいえそれでも通常のナイフの倍ほどの刃厚がありますので日本のいかなる森林での使用にも耐える十分な頑丈さを持ち合わせています。
ちなみに当店と契約する鍛冶工房は標高1200mのカトマンズ盆地にあり、カトマンズ盆地は古くから国中の村々との交易の拠点であったため山岳系・平地系両方にそれぞれ適したククリを鍛造する技術があります。