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バネ鋼

どんな山奥にも村がある

2021年5月1日

  ネパールの山地を歩くと、どんなに山奥に入っても村や集落があることに驚きます。下の写真はサガルマータ国立公園内にあるキンジャ川の両岸を写したものです。左側の斜面にご注目ください。

村

  点々と家があるのがお分かりいただけるでしょうか。左を向いて正面から斜面を撮った写真が下になります。

村

  傾斜30度はあろうかという斜面に見える白い点はすべて農家です。画面からはみ出した分も数えると全部で100軒はありそうな大きな集落です。でもこの写真を撮った場所はバスで行けるところまで行った後に更に二日間歩かないと到達できないような場所なのです。

  傾斜がきつすぎて平らな畑では土が流れてしまうので斜面の大半は段々畑になっています。川を渡って近づいてみると更に段々畑がよくわかります。

村

  こうして見るとやはり傾斜は30度はありますね。いったん谷底まで降りてから登ってここまで来るのに1時間半かかりました。この立地では水は谷底まで汲みに行くしかありませんのでここの住民にとっては往復1時間半が当たり前なのでしょう。
  こんな不便な集落が行けども行けども視界に現れるのです。でもよく見ると家は2階建てで立派ですね。

村

  なぜこうまで山奥に家があるのでしょう? ネパールはヒマラヤの小国であり国土の80%が山地か丘陵地なので山がある事自体は当たり前です。
  しかし日本だって山地と丘陵地の割合は国土の75%なのに山奥にある集落は多くありません。少なくとも日本では山の中を歩けばどこにでも集落がある、という状態ではありません。日本では某TV局で「ポツンと一軒家」などという番組ができるくらい山奥の家は珍しいのです。

  この違いは人口の集中度の違いです。日本では人口の90%が都市部や平地の市街地に集中していますが、ネパールでは都市部への人口の集中はせいぜい20%で、残りの80%以上が山間部に住んでいるからなのです。
  しかもネパールの人口は日本の2割程と少ないとはいえ、国土が狭いため人口密度で言えば新潟県や鹿児島県とほぼ同じになります。つまり人は結構いるのです。
  新潟県や鹿児島県の都会に住む人たちのほとんどが市街地を離れて山間部に薄く広く散った状態が、即ちネパールと同じ状態という訳です。そりゃ山を歩けば集落にぶつかるわな、と納得します。

  もちろん工業化が進んだ日本ではこれは実施不可能です。山間部に散った人たちの働く場所がないからです。なにしろ日本の農業人口は全人口のたったの1.4%しかありません。農産物の輸入をすべて停止したとしてもとても都市部の人間を吸収しきれません。
  一方ネパールの農業人口は70%です。実に日本の50倍! 都会に出なくても十分仕事があるのです。
  農民の割合が今の50倍の世界なんて想像できないでしょうか? いいえ、そうでもないと思います。ちょっと前まで日本でもそうだったのですから。
  昭和初期には日本の人口の半分が農林業に就いていましたし、もっと遡って明治6年の統計では農業就業人口は実に80%です。農業就業人口で見る限り現在のネパールの状況は明治初期の日本と同じくらいだと言えます。恐らくその当時の日本の山地を歩けば、ネパール同様どこに行っても村や集落が点在していたと思われます。

  こうして考えるとある意味ネパールの山村を訪ね歩くことは明治初期の日本の山村を訪ね歩くことに等しいとも言えます。一種のタイムトラベルができるわけです。
  そこは日本ではもう失われてしまった地域の伝統や言い伝えや神事などがまだまだ残っている別世界です。今からでも民俗学のフィールドワークをすればネパール版の遠野物語の再現ができるかもしれません。
  まあフィールドワークまでは行かなくても、トレッキングが趣味の店長は山奥の村を訪ねるといつもワクワクするのです。

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