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バネ鋼

珍しい訪問者

2021年3月1日

   かなり前にネパール南部の田舎の村を訪れたことがあります。村の名前はカジュリと言います。

  その村はインド国境からほんの1kmほどしか離れていない国境の村です。インドとネパールの間の国境なんて地元住民にとってはあって無いようなものなので出入りも自由で、実際村の中の道を歩き続ければそのままインド国境を通り過ぎてしまいます。と言っても国境のインド側には何にもないので交易で栄えている訳でもなんでもなく、単なる普通の村でした。
 カジュリ村の特徴は国境よりもむしろ鉄道にあります。村はネパール国内を走る唯一の鉄道であるジャナクプル鉄道の線路によって南北に分けられ、村内に駅もあるのです。

  残念ながら人も物資もカジュリ村を素通りして鉄道の始発地点であるジャナクプルかインド側の終点の駅に行ってしまいます。またそもそも列車は1日2往復しかしないので運べる人数も物資もたかが知れています。本当にただの小さな田舎の村なのです。
  店長の滞在地もジャナクプル鉄道の始発駅があるジャナクプルであって、当初はこの村の存在も知りませんでした。ですがネパール唯一の鉄道と言われれば一度は乗ってみたいではありませんか。さすがに日本人は国境を越えた終点駅までは行けませんので、ひとつ手前の駅で降りてみらこの村だったという訳です。

  カジュリ駅を降りると目の前に小さな食堂兼売店があります。というか駅舎もプラットフォームもなく、いきなり売店しかありません。足元から左右に地平線まで伸びるレールには枕木もありません。線路って枕木が無くても大丈夫なんだ、という驚きがありました。

訪問者

  売店の横には大木を囲んだチョウタラと呼ばれる休憩所があり日陰になっているので村人が何人か座っておりました。
  で、このチョウタラにいる村人の視線が非常にキツイのです。別に敵意がある視線ではなく、異様なものを目にした時の視線でした。こんな目で見られることってなかなかありません。痛い、痛すぎます。
下の写真をご覧ください。
 
訪問者

訪問者

訪問者

  そうです、田舎の村には外国人などめったに来ることはありません。肌の色も服装も非常に異質かつ目立つのです。特に子供はたった今UFOから降りてきた宇宙人でも見るかのような警戒心もあらわな目つきでこちらを凝視しています。(違います、列車から降りて来た日本人です!)
  でも不思議です、同じ田舎でも店長がよく行く山間部の村では普通もっとフレンドリーなものなのです。北部のヒマラヤの山奥と南部のインド国境付近で何が違うのでしょうか?。

  痛い視線に耐え切れず、線路の北側の村に向かって歩いてみることにしました。
  15分ほど歩くと子供たちが何かやっているようです。どうやらちょっとした池で小魚を釣っているようです。チャンスです。片言のネパール語で話しかけると物凄くびっくりしていましたが(宇宙人がしゃべった!)そこは子供なので、あっというまに慣れて笑顔で釣った魚を見せてくれるようになりました(こいつ友好的だぞ!)。

訪問者

  危険でないと分かると次から次へと子供が集まってきます。来るわ来るわ珍しいもの見たさにたちまち小学校の1クラス分くらいの子供たちが集まってきました。学校はどうしたんだ? 店長は眩暈がしてきました。いいえ、子供達のせいではありません、気温40度を超える炎天下の中で突っ立っていたせいです。
  いいかげん日陰で休みたいと思っていたら、子供から聞いたのでしょう(変な外国人が来てるよ!)今度は大人たちまでもが集まってきました。仕事はどうしたんだ? ぐるりと周りを取り囲まれてしまいました、こういう場合は笑顔でコミュニケーションを取るのが肝心です。

「何しに来たんだ?」  鋭い質問です。
  村にとっては一大事なのでそう質問したい気持ちはわかります。わざわざ外国から時間とお金をかけてこの村にやってきたからには何か目的があるはずだと考えて当然です。
  ですが本当に何の目的もなく列車を降りただけなのでとっさに答えられません。
  しかしUFOから降りてきた宇宙人に人類代表団が地球訪問の目的を訊ねたとして、返ってきた答えが「ちょっとブラブラしに来ただけっすよ」だったら納得するでしょうか?

「私は日本人です。この村には観光に来ました。」とまあ穏当に嘘ではない返答をしました。
「観光か。あっちに寺があるぞ、それを見に来たのか?」、「あ?ええ、そうなんです!」
親切に寺がある方向を指さしてくれているので行ってみることに。

  ちょっと気分が悪くなってきて対応するのが億劫だったので、案内したそうでしたが遠慮して一人で行かせてもらいました。しかしその道を歩けど一向に寺など見えてきません。村はそんなに広いはずはないのに道に迷ったようです。言い訳をさせてもらうと日本の整備された計画的な道と違って完全に自然にできた踏み分け道です。もちろん舗装もされていません。ついでに日陰もありません。
  持っていた水は飲み尽くし、歩いているだけなのに呼吸が荒くなり、だんだん吐き気がしてきました。これはまずい!  すぐに引き返すことにして南に向かって歩き始めました。もと来た道を引き返すよりとにかく南に行けば線路に出るはずだからです。指の先が痺れてきました。熱中症の不吉な兆候です。

  幸い線路に出るとすぐそこが駅前の売店でした。ペットボトルのミネラルウォーターを買ってガブ飲みしたい、が、そんなオシャレなものは置いていません。仕方なく熱いお茶を注文してフーフーしながら飲みました。
  次の列車が来る迄あと数時間あります。もう日差しの下は歩きたくないのでお店の屋根の下で体力の回復をはかりつつ列車を待ちました。お店の女将と子供たちは職業柄「知らない人慣れ」しているせいか打って変わってとてもフレンドリーでした。
 
訪問者
 
  子供たちの顔を見ていて少しわかった気がしました。ネパールには50を超える民族が暮らしていると言われます。北部のヒマラヤ山中では日本人に顔立ちが似たチベット系の住民なのに対して、南部のこの辺りではアーリア系の彫りの深い顔立ちです。
   つまりこの辺りの人たちは日本人に会った時に強い違和感を感じるのでしょう。それがあの目付きになって表れているのではないでしょうか?

  いずれにしろお茶を飲んで少し話をしてみるとチョウタラにたむろしていた人たちも打ち解けた優しい顔になってくれました。笑顔とおしゃべりは異文化交流の魔法の薬です。

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