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バネ鋼

収斂進化?

2021年1月1日

  用途が同じ道具はその起源がまったく別物でも似たような形状になることがよくあります。コップや皿は日本の物であれ西洋のものであれ中に食べ物を入れる必要があるために必ずくぼんだ形になります。
  門レベルで異なる生物であるハチと鳥も飛ぶ必要から同じような羽を作り出しました。これを収斂進化というそうです。このような傾向は武器・武具にもあるのではないかと思うのです。

  以前台湾にある故宮博物院で興味深いものを発見しました。故宮博物院は古代中国の青銅器のコレクションが豊富で、今から4,000年以上前まで遡る青銅製の武器類が数多く展示されているため一度行ってみたかったのです。

戈

  博物館は最上階のフロアが丸ごと青銅器の展示に割かれておりました。日本がまだ縄文時代で狩猟採集をしていた頃だというのにこれらの青銅器が物語る文明度の高さときたら驚異的です。フロアも広いですが付属の庭園も巨大で、さすがは世界3大博物館の一つですね。ちなみに残りの二つはロンドンの大英博物館とワシントンのスミソニアン博物館だそうです。

  さてお目当ての青銅製の武器・武具ですが、あるわあるわ、斧、戈、鉾、矢、剣、刀、、、

戈

戈

戈

戈

  中でも目を引いたのは戈(か)です、下の写真をご覧ください。戈は本体の後ろの部分を棒(写真では透明なプラスチック製の部分)に貫通させたうえで本体に開いた穴に紐を通して棒に固定して使うというちょっと目にしたことがない形状の武器です。
  棒の部分が3mほどの長柄のタイプと60cm~1mほどの短柄のタイプ、その中間のタイプの3種類があります。他の武器類は現代でも形状や用途を引き継いだ子孫たちを見ることができますが、戈の子孫は見かけません、というかユニーク過ぎて類似の武器がすぐには思い浮かびません。そもそもこれはどうやって使ったのでしょうか? 

戈

  文献によると長柄のタイプの戈は馬が引く戦車に乗った人が振り回して使うものだったらしいです。L字に曲がった先端の鋭い部分を相手に打ち込んだり、鎌のように使って首や手足を刈るように切りつけたり、戦車に乗った相手に引っかけて戦車から落としたりしたとの事です。

  短柄のタイプの戈は後漢頃までは剣と並ぶ一般的な武器だったそうで、用法は通常盾とともに使って、振り回して先端を打ち込むだけではなく、戈を受け止めた相手の得物を引っかけるようにして防御に隙を作ったり体勢を崩したりしたそうです。
  下の写真は装飾の無い量産型の短柄用の戈のようで、折れにくいように本体部分に峰状の出っ張りを3本作って強度を増しています。このあたりは以前の店長日記で紹介したブンディ・ダガーと同じ構造で合理的です。使用痕があるので実際に使われたものなのでしょう。

戈

  青銅器に鋳込まれた戈の図が以下になります。当時の戦争の主要武器の一つだったことがうかがえます。上が長柄のタイプ、下が短柄のタイプのようです。
 
戈

戈

  先端部が長手方向に対して垂直についている点、槍のように突くのではなく、振り回して重さと遠心力で先端を相手に打ち込む点、この用法にはどこかで覚えがあります。そう、当店でも扱っている古代の刀剣「コラ」です。コラへのリンク

戈

  上の写真はネパールの首都カトマンズにある国立博物館のコラです(ちなみに発音はネパール語では「クーンラ」の方が近いです)。コラにも長いものと短めのものの2タイプあります。
  写真上は短い(といっても刃渡り80cmはありますが)タイプで、重く、分厚く、幅広で、まるで斧の刃をそのまま伸ばしたような形状です。刃は湾曲した内側にあり、先端のとがった部分は刀身に対して垂直についております。
  こちらは重さと腕力で打ち込むもので、振り下ろしたコラを仮に相手が受け止めても重さと勢いに押されてそのまま先端部が頭蓋骨に食い込むことになります。まあこのタイプは常人の腕力で振り回せる重さではないので使う人を選ぶ武器ですね。
  一方写真下の長いタイプは刃渡り1mもあります。細身で軽量ですが、やはり末端部に重心があり刀身に対して内側に先端があります。明らかに振り回して遠心力で先端を打ち込むための構造です。

  戈とコラが起源を同じくする物かどうかは店長にはわかりません。場所も使われた時期もずいぶん違うようなので、おそらく両者は独自に発展したものなのではないかと思います。ですが「突くのではなく振り回して使う」という共通したコンセプトであったため同じような形状になったのではないでしょうか。

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