ネパール軍の部隊旗
2020年10月1日カトマンズにある軍事博物館については以前の店長日記でもちょっと紹介しましたが、今回は別の展示を中心に紹介します。それはネパール軍の部隊旗です。
ネパールの首都カトマンズの中心部から西に30分ほど歩くと広大な軍の敷地に併設されたネパール軍事博物館があります。正門の横に防弾壁に囲まれた小高い監視所があって自動小銃を持った本物の軍人が警備をしている博物館というのも珍しいです。
ここには18世紀の建国以前から始まって21世紀の国連平和維持軍参加までのネパールの古今の歴史的な軍事資料が集められています。
例えば、東インド会社(=イギリス軍)と戦った時の刃の欠けた大型ククリや、第二次大戦中のインパール作戦で大日本帝国陸軍からぶんどった日本刀(写真1)といった生々しいものから、ネパール版ナイチンゲールと言ってもいい初の従軍看護師アンナプルナ・クンワール(写真2)の短い伝記や軍楽隊の楽器(写真3)などといったものまでもが展示されています。
軍楽隊の展示はホルンやトランペットといった西洋楽器の中にネパールの伝統的な太鼓であるマダルが入っているのがいかにもです。写真1
写真2
写真3
そんな軍事博物館の一角には下の写真のようにネパール軍の各部隊の部隊旗がズラッと並べられたコーナーがあり、そのデザインにはなかなか興味深いものがあります。
ネパールだけではなく各国の軍隊の部隊旗や部隊章を見るとそのデザインに定番のパターンがあることに気付くのです。
代表的なモチーフを挙げると、
① 駐屯地の地図や地形
② 部隊番号
③ 部隊の特徴
④ 勇猛さを示すもの
⑤ 神頼み
といったところです。
①の地図や地形の例は非常に多く、下の写真のように北海道に駐屯する自衛隊の北部方面隊の部隊章は北海道地図そのものですし、静岡県や山梨県を管轄する第1師団は当然のように富士山マークです。
ネパールの部隊旗ではヒマラヤ山脈をあしらったものがあります。
北部方面隊 第1師団
②の部隊番号も定番ですね。アメリカ第七艦隊の記章は錨と鷲の後ろに7の文字があります。自衛隊第6師団の部隊章も数字の6です。
第七艦隊 第六師団
③の部隊の特徴では航空部隊では翼のマークを、落下傘部隊では傘のマークを使ったりします。イタリアのフォルゴーレ空挺部隊は翼に稲妻(イタリア語でフォルゴーレ)をあしらったイカしたデザインです。上記の第七艦隊でも船の錨がアレンジされています。
名古屋に司令部がある自衛隊第10師団の部隊章は若干やりすぎの感がある金のシャチホコです。北海道の北部方面隊のマークがカニでなくてよかったです。
ネパールの部隊旗の例では赤十字の衛生部隊や国連軍のマークなどがあります。
フォルゴーレ空挺部隊 第10師団
④の勇猛さを示す例でネパールでダントツに多いのは何と言ってもククリの意匠です。ジャングルや屋内、列車の中など狭くて見通しがきかない状況下で無類の強さを発揮するククリは白兵戦の友でありネパール軍人の勇気の印でもあります(店長日記参照)。
他国ではドクロの意匠がよく採用されています、いわゆる海賊旗のマークです。有名なところでは旧ドイツ軍の部隊章や襟章でしょうか。
あるいは強さの象徴としてヨーロッパでは竜、ネパールではユキヒョウなどが採用されることもあります。
ククリがあしらわれた部隊章
ユキヒョウがあしらわれた部隊旗と仏軍第二竜騎兵連隊旗
ネパールでは下の写真のようにシバ神やその武器である三叉鉾、戦いの神インドラやドゥルガーがよく描かれています。ヒンドゥーの神々は魔族としょっちゅう大戦争をしていますので部隊章に採用してもきっと怒られないのでしょう。
フランス陸軍第9海兵軽機甲旅団のロレーヌ十字
シバ神の三叉鉾やドゥルガー神があしらわれた部隊旗
ネパール軍の部隊旗はここに展示されているだけで132種類もあります。ヒマラヤの小国が抱える陸軍のみの軍隊としては多すぎです。
おそらくこの中のかなりの部分がここ40年ほどの国連平和維持軍参加時の部隊旗だと思われます。なにしろネパールの平和維持軍派遣人数は世界第7位なのですから。多くの主要先進国を上回っています。
第二次大戦が終わって以来ネパールは自国が当事者となった国家間の戦争や紛争を経験していません(内戦はありましたが...)。日本も同様ですがこれは誇るべきことです。店長はこの博物館に平和維持軍以外の戦争資料が増えない事を願っています。
店長から一言
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