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バネ鋼

信用できない道案内看板

2019年10月1日
  今からちょっと前の2011年はネパール・ツーリズム・イアーと銘打って政府主導でネパール国内の旅行施設の充実化が図られました。観光客への宣伝活動だけではなくホテルや道路の整備もなされ、ヒマラヤの山奥にすら道案内の看板が立ちました。
  これでトレッキングも安全で便利になってくれればよかったのですが、そうはならないのがネパールです。なぜなら看板の中には非常に残念でいい加減なものが多く見受けられるからです。中には旅人を迷子にしてしまうような危険な看板すらあるので要注意です。

看板

  例を挙げて説明しましょう。上の写真はジリというエベレスト方面のトレッキングの玄関口にあたる街から1キロほど山道を歩いた場所にあった看板です。
  中心の丸印が現在地点で、そこから5方向に矢印が出ているという分かりやすい表示ではあるのですが、問題はこの看板が五叉路などではなく一本道のわきの立木に打ち付けられているという点にあります。
  一本道なので左右方向の矢印は分かります、しかし他の矢印は何なのでしょう?周辺を歩き回った結果、上方向の矢印は地元の人が通る獣道で、斜め右上の矢印はここから少し歩いたところに石畳の分かれ道が見つかりました。下向きの矢印はついに当てはまる道が発見できず分からずじまいでした。
  おそらく道を熟知している地元の人たちにとっては説明の必要もない正しい看板なのでしょう。上の矢印だけカッコ書きになっているのは獣道である事を表しているのかもしれませんし、もう少し捜索範囲を広げれば下向きの矢印も見つかったのかもしれません。しかし地元の人ではなくトレッキングに訪れたツーリストに分からなければ意味が無いではありませんか。

  結局店長は上向きの獣道を選んで歩き始めましたが、15分でT字路に突き当たって途方にくれました。T字路のほぼ正面にある家の人に左右どちらに行けばいいのかを聞くと、右でも左でもなくそのまま直進して家の横を突っ切って行けという意外な回答が返ってきました。どうやらこの家の人が普段使っているショートカットを親切に教えてくれたようです。
  ショートカットの道は細い上に分岐が多くて非常に迷いやすいので避けたいのですが、右と左のどちらが正解かわからない以上このショートカットに賭けるしかありませんでした。
  その後に続く苦労話はひとまず置いておくとして、店長が強調したいのは道案内の看板が全然役に立っていないという事です。

  続いて下の看板をご覧ください。ヘランブーと呼ばれるエリアにあった看板です。

看板

  この地域の村々とそこに至る道路が網羅された分かりやすい地域全体図だなどと勘違いしてはいけません。この地図にはいくつか致命的な欠点があります。

1.現在地がない
  普通看板がある場所(自分がいる場所)が赤丸で示されていたりするものですが、この看板にはそれがありません。目的地の村までの道が分かっても自分がどこにいるのかわからないのではどっちに歩き出せばいいのか判断できません。

2.方角が分からない
  普通地図は北が上になっていますよね? でもこの地図はおそらくこの周辺に住む村人が頭の中に持っている概念図を絵にしたものであって、方向の情報が極めていい加減です。つまり地図のある場所では北が上だが別の場所では左だったり下だったりします。よって方位磁石を持っていてもこの地図をあてにはできません。

3.道路が実際の道路の一部しか描かれていない
  実際に歩いてみると道路はこんなに単純ではなく、ここに描かれていない分かれ道が多くあります。しかも描かれていない道の方が太かったりします。なので「地図では次の分かれ道を右に行けば目的の村に着く」と信じていると、地図にない道を右に曲がってしまいとんでもない所に着いたりします。

  まさにトレッキング客を迷わせるために作られたような恐ろしい看板です。しかし更に恐ろしことに、これにはまだ続きがあるのです。下の看板をご覧ください。

看板

  上の看板はチリ(CHIRI)村にあった看板です。下側の矢印はまあいいでしょう、隣村の名前は確かにタレパティ(THAREPATI)で、更に5~6時間歩けばメラムチギャン(MALAMCHIGHYANG)に着くからです。ですが問題は上の矢印です。看板ではチリの隣村がガンギュル(GANGYUL)で、タルケギャン(TARKEGHYANG)まで5分と表示されています。
  実際に歩いてみるとこれは大嘘でした。隣村の名前は合っていますがタルケギャンまでは優に1時間は歩きます。さらに二つ上の写真の緑の大きい看板の中のチリ村やタルケギャンの位置関係と明らかに矛盾しています。
  つまり地域全体を表示した緑の看板そのものがいい加減である上に道の途上にある個々の看板が互いに矛盾しているのです。こんな看板を信じて歩き出したら夏場はまだしも冬場は本当にシャレになりません、遭難の可能性が十分あります。

  ネパール・ツーリズム・イアーから8年が経過し、ヒマラヤ山中には更に多くの新しい道が作られています。しかし相変わらず看板は古いままで、これらの看板の危険度は更に増しています。政府の指示で作られたので勝手に撤去もできず、地元の人たちにとってはそもそも不要なものなので放置されるのは当然なのです。
  更新できないならこれ以上の被害が出ないうちに早く撤去の指示をして欲しいものですが、しないでしょうねぇ...。

  もしこれを読んでいる皆さんがヒマラヤトレッキングをすることになったら、事前に信用できる地図を購入した上でGPSを活用し、看板はあくまで参考にとどめてください。信用するとエライことになります。

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