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バネ鋼

南アジアの武器・武具 その4

2019年3月1日
  また南アジアの武器・武具シリーズに戻ります。今回はダルの話です。
  下の写真をご覧ください。手の大きさと比べると分かりますが直径僅か40cmの丸い形をしたこれは何に使うのでしょうか?これは鍋の蓋でもなければタイヤのホイールキャップでもありません、ダルは盾なのです。シリーズその3で紹介したタルワールとよくセットになって展示されていたりします。
  盾というと体の大部分か少なくとも半分くらいはカバーするものを想像してしまいますが、それは槍や矢を防ぐための盾です。このダルは刀を持った相手と接近戦をするための盾なのです。大型の盾とは違って腕に固定するのではなく、裏側にある取っ手を掴みます。アイロンを熱い面を相手に向けて構えたイメージです。

ダル

ダルの使い方は以下のように多彩です。
 ①相手の斬撃を受け止める 
 ②曲面で相手の突きを逸らす 
 ③こちらの攻撃を相手の目から隠す 
 ④ぶん殴る 
 ⑤最後に組み打ちになったら相手の体に押し付けて動きを拘束する 
①と②は当然ですが、③も重要で、ダルを使って自分の剣と腕の初動を隠せば相手にとっては準備動作なしで突然に攻撃が来ることになり避けにくくなります。またダルは自由に振り回すことができるくらい小型軽量なので、大きめのメリケンサックとして④の用途に使われます。そして甲冑を着た者同士の接近戦の常として最後に組み打ちになった場合は、ダルを突きつけておけば簡単には組み付かれませんし、相手を地面に押さえつける時には手という”点”ではなく”面”で押さえつけることができます。

  下の写真はネパールの軍事博物館にあるグルカ戦争(1814~1816年にイギリスの東インド会社がネパールに侵攻した際に起こった戦争)の様子を描いた絵です。イギリス兵のサーベルをダルで受け止めようとしています。ちなみにネパール兵が右手に持っているのは当店のラインナップで言うと白兵戦用大型ククリと同じくらいのサイズのククリのようです。19世紀初頭まではダルが実戦で使われていたことが分かります。

ダル

  しかし銃器が発達した現在では上記のような実戦で使われることはなくなってしまいました。では何に使われているのかと言いますと、意外なことに主にインテリアとして使われています。下の写真をご覧ください。武器にしては武骨さがなく、丸みを帯びた外見であるため貴族の家の壁などにまるで絵画のように掛けられていたりします。
  更に下の写真はインドの首都デリー郊外のサンスクリット博物館に飾られているダルです。もはやお洒落な壁飾りとなっています。

ダル

ダル

  そもそもダルという言葉自体が”豆”という意味であまり武器らしくありません。日本人のイメージではあまり豆のように見えないかもしれませんが、さらに下の写真にあるように実はダルの形は南アジアで一般的に食べられている種類のお豆(レンズ豆)にそっくりなのです。

ダル

  ちなみに上記のグルカ戦争で辛くも全面敗北を免れはしたが自国に不利なスガウリ条約を結ばざるを得なくなったことを境にネパール軍の装備も急速に西洋化され、軍事博物館に展示されている19世紀末(グルカ戦争から50~60年後)のネパール軍騎兵の装備(下の写真)はグルカ戦争の絵に描かれたイギリス兵とあまり変わらないものになっています。

ダル

  この辺りは幕末に薩摩藩とイギリス軍との間に起こった薩英戦争、そして長州藩とフランス・イギリス・オランダ・アメリカとの間に起こった下関戦争の教訓に学んで、開国後に西洋式の常備軍を新設した日本と重なるところがあります。
  もっとも西洋国家に敗北した後に素早く開国して工業化にシフトした日本とは違って、ネパールが本格的に”開国”するまではグルカ戦争から更に百数十年を要し、その間にすっかり世界から取り残されてしまいました。
  ですがある意味そのおかげ(?)で「時が止まったようなヒマラヤの小国」という独特な地位を確立したわけです。うーむ、どっちが良かったのかなぁ...?

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