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バネ鋼

山里の初夏の脱穀風景

2018年7月1日
  ちょうど今頃の時期にヒマラヤのヘランブーと呼ばれる地方を歩いておりました。今時期は前年の晩秋に蒔いた麦の刈り取りのシーズンで、道々どの村でも麦刈り風景が見られました。
  コンバインもトラクターもない完全手作業の麦刈りはとてものどか(などと言ったら苦労してやっている村人には怒られそうですが)なもので、しばらく標高2500mほどに位置するメラムチガオンという村に滞在して麦刈りを眺めて過ごしました。

  そこでまず気付いたのは不思議な麦の刈り方です。なぜか根元から刈らずに穂の部分だけ摘み取るように刈るのです。最終的には根元から刈って茎の部分は麦わらにして利用するはずですのでこれでは二度手間です。一体どうしてでしょう? 
  下の写真の上側が麦刈り前の状態、その下が麦刈り後の状態です。麦刈り後の畑はただ茎だけが突っ立っています。そのさらに下は刈り取った穂を干している所です。

脱穀

脱穀

脱穀

  疑問はまだあります、穂の部分だけ刈り取ってどうやって脱穀するのでしょう。下の写真はメラムチガオン村から3日ほど山を下った平地にあるバクタプルの麦刈り風景です。ここではちゃんと根元から刈り取って、麦を束ごと石に叩き付けて脱穀しています。根元から刈り取ったからこそできる技です。ちなみに道に刈り取った麦を広げて人や車に踏ませて脱穀する方法もありますが、ヒマラヤの山奥ではそもそも車が珍しく人もそうそう歩いていないため実行不可能です。

脱穀

脱穀

  穂だけ刈り取る疑問はしばらく眺めているうちに解決しました。「穂のまま保管してその日使う分だけ臼と杵で脱穀する」が答えです。臼と杵は現代の日本ではもっぱら餅つきにしか使いませんが、日本でも昔は臼の主要な用途は脱穀と製粉だったようです。

脱穀

  でも自家消費用ではなく脱穀した麦を売って現金収入を得たい場合はこんな方法では間に合わないはずです。その場合の答えは「殻竿を使って一気に大量に脱穀する」です。

脱穀

脱穀

  殻竿なんて店長は初めて見ました。知らない人も多いと思いますので説明すると、長い棒の先に短い棒がブラブラになる感じで取付けられていて、振り回すと短い棒の部分が麦の山にピシャリと打ち付けられる仕組みになっています。
  こうやって脱穀された麦粒はまだもみ殻とまじりあっていますので分別しなくてはなりません。分別は風力によって行われ、少量なら平たいザルで、大量ならゴザを敷いてもみ殻や茎のかけらを風で飛ばしてしまいます。風のない日は下の写真のように電動送風機を使ったりもします。まあ停電が多いのであまりあてにはなりませんが…。

脱穀

  残された疑問は畑に突っ立たまま残された麦の茎です。最初は畑に牛や馬を入れて勝手に食べさせるのかとも思いましたが、そのような様子は見られず畑は柵で囲われて中に入れないようにされています。秋になると畑は伸び放題の雑草で覆われて、下の写真のような感じになってしまいます。
  その時は結局これについては分からず仕舞いのまま山を下りました。

脱穀

  下山後に文献をあたったところようやく答えが見つかりました。どうやら雑草に見えていたものは雑草は雑草でも家畜の飼料にもなる植物であって、根元から麦を刈らなかったのは一緒に雑草を刈ってしまわないためだったようです。秋には麦の茎もろとも伸びた雑草を刈りとって乾燥させて冬期間の家畜の飼料にするそうです。ある意味麦と雑草の二毛作と言えます。

  麦だけの二期作ができれば一番いいのでしょうが、ヒマラヤの厳しい気候では無理なのです。二期作どころか標高があと1000mも上がれば麦の栽培そのものが不可能になります。ちなみに平地のバクタプルでは麦が二期作されていますので根元から刈り取られるという訳です。

  どれだけ苦労して麦を収穫し脱穀しているのかが分かったせいでしょうか、メラムチガオン村で食べた新米ならぬ新麦で作ったパンや麺はとても美味しく感じられました。

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