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バネ鋼

フェルト工場

2018年6月1日
  ネパールの首都カトマンズの繁華街タメルには下の写真のような外国人観光客向けのフェルト屋がたくさんあります。なぜ外国人向けだと思うのかというと、写真をご覧になれば分かるようにデザインがいかにもネパールらしくないことと、知り合いのネパール人のご家庭に行ってもフェルト製品を見かけたことがないからです。

フェルト

  そもそもネパールにおける商業的なフェルトの歴史はそんなに古くはないと思うのです。フェルトショップが目に付くようになったのはせいぜい今世紀に入ってからで、それまではあんなに目立つ店構えなのに見た記憶がありません。

  こんな話を当店のネパール人スタッフにすると、なんと彼の友人がフェルト工場を経営しているというではありませんか、灯台下暗しです。これは行ってみないわけにはいきません。
  工場に連れて行ってもらうと、これまた灯台下暗しで当店と契約する鍛冶工房と同じ並びの徒歩1分の場所にありました。我ながら今までよく気が付かなかったものです。中に入ると15m四方くらいの作業場でまさにフェルト生地が作られている所でした。
  店長はフェルトには詳しくありませんが、簡単に言うと石鹸水を付けた羊毛を平らな台の上でひたすらこすり合わせていると互いに絡み合ってくっついて板状のフェルト(上側の写真)になるそうです。これをちぎって成形して更にこすり合わせてくっつけたりすると継ぎ目なしの一続きのバッグや財布が出来上がるという訳です。下側の写真の紫色の洗面器を伏せたようなものはボウルか小物入れだと思います。

フェルト

フェルト

  作業場に隣接して出来上がったフェルト素材の置き場があり、また縫製や梱包や出荷を行う場所があってサンプル品が並んでいます。次の写真の上側がフェルト素材、下側がサンプル品です。

フェルト

フェルト

フェルト

  さてこれらのフェルト製品のお値段ですが、ひっじょーに安い! 大型のバッグで2,000円程度です。日本でなら10倍近くすると思われます。フェルト好きの読者の皆様、是非ネパールに足をお運びください。

  フェルト工場というものがどういう所なのかを把握してから改めて郊外を散策してみると、洋服やアクセサリー類の工場に混じってフェルトの小さな工場がちょこちょこ見つかるではありませんか。ということはトータルでは結構な量のフェルト製品が生産されていることになり、たかがタメルの十数軒の店に並べるくらいでは済まないはずです。フェルトはどこに行ってしまったのでしょう? そうです、フェルトは輸出されているのです。
  ネパールの統計を調べてみると、その輸出額の上位は毛糸や布地やそれらを使ったカーペットや衣服といったアパレル製品が占めています。フェルトも原料は羊毛なのですからここに含まれているに違いありません。上の写真のサンプル品も聞けばヨーロッパ向けの輸出品とのこと、デザインが垢抜けていたり西洋風だったりするのも頷けます。

  店長はここに新たな可能性を感じます。ネパールは国連が定める世界最貧国の一つです。それでも工夫次第でこうやって付加価値の高い商品を安価に作り出してそれを輸出することで貴重な外貨を稼ぎだす事だってできるのです。ネパールのヨーロッパ向けの輸出入は全輸出入量の1割ほどに過ぎず隣国インドや中国には遠く及びません。しかし稼ぐならインドの通貨「インドルピー」や中国の通貨「元」より断然「ユーロ」や「米ドル」の方が魅力的です、国際的な信用度が違います。ネパールの通貨「ネパールルピー」の信用は最低でもユーロやドルで買えないものはありません。
  日本だって幕末の内戦である戊辰戦争が終わった直後の明治政府は(当時の日本円は国際的には何の信用もなく、銀貨以外の紙幣は紙くず同然でしたので)外貨が喉から手が出るほど欲しかったではありませんか。内戦が終わってまだ10年そこそこのネパール政府だって事情は同じなのです。

  更なる可能性は、こうした工場で働く工員の多くが女性だという事です。店長が見学させてもらった工場も経営者以外は皆女性でした。
  多分これをお読みになっている方々は「それのどこがそんなにいいの?」とお思いでしょう。当然です、日本では働く女性は当たり前です、でも明治初期の日本で女性が働ける職場が多くなかったようにネパールでは女性が働いて現金収入が得られる職場が日本よりずっと少ないのです。
  内戦後に再スタートしたことといい、国の経済状態といい、男尊女卑が残っていることといい、現在のネパールは明治期の日本にくどいくらい符合します。女性が働けずに豊かになった国を店長は知りません(掘れば石油がいくらでも湧いて出るような国は別ですが)。店長はネパールにもっともっと女性が働ける場が増えることを願っています。

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