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バネ鋼

アヴァターラ

2018年1月1日
  何年か前に「アバター」という映画がありました。当時は珍しかった3D映画ということで好評を博し、確か映画の興行収入で歴代一位を記録したはずですので見に行った方も多いと思います。
  映画の中では人工的に作った体に主人公の神経を無線で接続して、カプセルの中で眠った状態の主人公がその体を自由に動かせるようになっています。この第二の体こそが映画のタイトルにもなっているアバターです。
  このアバターという言葉は最近ではゲームの世界でよく使われており、ゲーム世界での自分自身のキャラクターのことを表す言葉になっています。

  皆さんはアバターの語源をご存知でしょうか? 店長はつい最近知りました。なんとヒンドゥー教で神様の化身(けしん)の事をアヴァターラと言い、これが英語のアバター(avatar)になったのです。ヒンドゥー教寺院であふれかえっているネパールに活動の拠点を持ちながら今まで気づかなかったとは不覚です。
  ヒンドゥー教では神様が一時的に人間や動物に転生して人間界に現れることがよくあります。それが化身すなわちアヴァターラです。例えて言うなら、科学特捜隊のハヤタ隊員はウルトラマンが仮に人間の姿を取ったものなのでその意味でアヴァターラと言えます。
  では水戸黄門が越後のちりめん問屋の隠居という仮の姿でいるのもアヴァターラといって言えなくも…いやこれは無理があります。アヴァターラは神や魔族など人外の存在が転生した姿でなくてはならないからです。

  ネパールで人気が高いアヴァターラに維持神ビシュヌのアヴァターラがあります。維持神である彼は世界の秩序を維持するのが仕事です。このビシュヌというのはかなり正義のヒーロー的な神様で、何かが原因で世界が大幅に破壊されたり、秩序が取り返しがつかないほどに乱れそうになるとアヴァターラとして人間界に姿を現し、その原因を取り除くのです。まさにヒーロー降臨です。下の写真がビシュヌです。

アバター

  ビシュヌには10の代表的なアヴァターラがあります。世界の危機の原因はたくさんありますのでアヴァターラもたくさん必要な訳です。そのうちのいくつかを紹介します。
  下の写真はバクタプルのある寺院の石像です。パッと見は下半身に魚が食い付いた人間のようです。しかし本人は落ち着いており慌てている様子がないのでどうやら食われているわけではなさそうです。人魚かとも思いましたが、魚の目や口がはっきりと描かれているのでこれも違うようです。この正体不明の彫刻の正体こそマツヤというアヴァターラだったのです。魚の口から上半身がはみ出しているのがビシュヌで、この魚がビシュヌの化身であることを表しています。
  今から数万年前マツヤは世界的な洪水が起こることを人間に知らせ、人間とすべての植物の種を乗せた巨大な船を作らせました。洪水が起こるとマツヤはかろうじて水から顔を出していたヒマラヤ山頂までその船を引っ張って行って人類を滅亡から救ったのです。水の中で自在に動くために魚の姿を取ったのですね。ご存じのように聖書にも同じような話があります。

アバター

  下の写真はナラシンハです。見ての通り頭がライオンで体が人間という姿をしています。この姿でなければ解決できない危機があったのです。
  昔々ヒラニヤカシプという魔族がいました。彼はビシュヌに倒された兄弟の敵を討つため厳しい苦行を積んだ結果、それに感心した創造神ブラフマーから(多分ヒラニヤカシプの修行の動機を知らなかったのでしょう)大きな力を与えられます。その力は「神にも魔族にも殺されず、人間にも動物にも殺されず、昼でも夜でも家の中でも外でも地上でも空中でも殺されず、どんな武器によっても殺されない」という超絶無敵の力でした。

アバター

  チートと言うかインチキと言うか、とにかくこの力を使ってヒラニヤカシプはたちまち天上界・地上界・冥界の3世界を制覇し、魔族の王として君臨しました。戦いの神インドラが持つ大量破壊兵器ヴァジュラをもってしてもヒラニヤカシプに傷一つ付けられず、どの神も彼を止めることはできませんでした。それどころか神々は全員天上の宮殿から追い出されて雲の後ろに隠れてコソコソ暮らしている始末です。
  力を与えてしまったブラフマーに責任を取ってもらいたいところですが、彼は芸術家肌の創造神なのでは創造的なこと以外は何にもしません。
  世は乱れに乱れました。そうですそんな時に現れるのが維持神ビシュヌのアヴァターラです。でもこの超絶無敵の魔族をどうやって打ち破ったのでしょうか?

  具体的にはこんな具合でした。

  夕暮れ時の事でした、天上の宮殿に居座ったヒラニヤカシプは自分の息子を叱っていました。なぜなら息子が事もあろうに大嫌いなビシュヌを信仰していたからです。ビシュヌはどこにでもいると主張する息子に対してキレたヒラニヤカシプが「どこにでもいるというならお前を助ける者がこの柱の中にもいるはずだな、見せてもらおうか!」と言って柱を殴ると、たちまち柱の中から現れたのがビシュヌのアヴァターラであるナラシンハだったのです。
  獣面人身のナラシンハはヒラニヤカシプを引っ掴むと宮殿の中と外の境界である門まで行き、ヒラニヤカシプを自分の腿の上に乗せて、素手で彼を引き裂いたのでした。折しもちょうど日が沈む瞬間でした。
  つまり人でも獣でもない生き物が昼でも夜でもない時間帯に家の中と外の境界上で地上でも空中でもない腿の上で武器を使わずに素手で殺した訳です。かくして世界は
神の手によって魔族から奪還されました。
  写真はまさにヒラニヤカシプの腹を裂いている場面ですね、腸がはみ出しています。
  その後行われた世界奪還祝賀会にはブラフマーもちゃっかり出席していたことを付け加えておきます。

  まだまだあります、以前店長日記で紹介したラーマーヤナのラーマ王子(下の写真の左)もビシュヌのアヴァターラの一つです。
  このケースでは敵の羅刹王ラーヴァナに「神には殺されない」という力が授けられていたため、ヴィシュヌはラーマ王子という人間に転生して戦ったのでした。ちなみにこの迷惑な力をラーヴァナに授けたのもやはり上記の創造神ブラフマーです、全然懲りてませんね。

  下の写真の右側もビシュヌのアヴァターラでヴァラーハと言います。イノシシの姿をしているのはかつて大地が海に沈んで生物が絶滅しかけた時に海底の大地を引っかけて持ち上げるために牙が必要だったからです。

アバター

  一説にはビシュヌには無数のアヴァターラがあるそうですので、もうこの場では紹介しきれません。我々になじみ深い仏陀(いわゆるお釈迦様)もそのうちの一つだと言われています。日本人にとってはにわかには納得しがたい事ですが....。

  このアヴァターラが分かると、それまでただの怪獣図鑑のように見えていた寺院の彫刻や壁画がちょっぴり理解できるようになって寺院巡りが楽しくなります。

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